以下ネタバレになります↓
翌朝。
(聡一郎さんと食事なんて久しぶりだな・・・何着て行こう)
(・・・あ、そういえばこの前買った新しいワンピースとかいいかも)
クローゼットから新しいワンピースを取り出して、姿見を眺めてみる。
(うん、悪くない)
(ちょっといつもと雰囲気が違って見えるけど、たまにはいいかな)
ワンピースに着替えると、化粧台の前でメイクする。
仕上げに香水を首筋にひと吹きすると、ふんわりとした甘い香りが周囲に広がっていく。
(なんだかまるで、初めてのデートに行くみたい)
(昨日も会ったばかりなのに、またすぐに会いたい気持ちが込み上げてくる・・・)
(早く連絡来ないかな)
支度を終えてしばらくすると、聡一郎さんからメールが届いた。
(『もうすぐ着きます』か・・・)
(準備も終わったし、もう外で待っていようかな)
マンションの前に出ると、タイミングよく総一郎さんの車が目に留まる。
(あ、来た・・・)
車が路肩に停まり、運転席から聡一郎さんが出てくる。
入江 「すみません、遅くなってしまって」
入江 「ここでずいぶん待たせてしまいましたか?」
「いえ、今降りてきたところです」
入江 「そうでしたか。それなら良かったです」
入江 「さ、どうぞ」
爽やかに笑みを見せながら、聡一郎さんがさり気なく助手席のドアを開けてくれる。
(自然にこういう振る舞いが出来るのは、やっぱり格好良いな・・・)
改めて聡一郎さんの紳士的な態度に感心していると、
ふと聡一郎さんの視線がじっと注がれていることに気付く。
入江 「今日はなんだか、一段と魅力的ですね」
「え、そうですか?」
入江 「ええ、なんだか・・・このまま空港に向かうのが惜しまれますね」
入江 「出来ることなら、誰にも見せずにあなたを独り占めしたいくらいです」
優しく目元を細めながら、聡一郎さんがにっこりと微笑む。
「そう言っていただけて嬉しいです」
「今日は少し張り切り過ぎちゃったかなって思っていたので・・・」
入江 「・・・それは、私も同じですよ」
「え?」
入江 「△△とこうして会う時は、つい飾り過ぎていないか心配になりますから」
「ふふ、聡一郎さんはいつも素敵ですよ」
入江 「あなたにそう言ってもらえて、ようやく安心できましたよ」
入江 「さて、ではそろそろ向かいましょうか」
入江 「足元、気を付けて下さいね」
「はい」
助手席に座ると、聡一郎さんがそっとドアを閉めてくれる。
車は空港へと向かって走り出した。
空港のロビーに到着し、小渡先生を探す。
「人が多いですね・・・、鈴子ちゃん大丈夫でしょうか?」
入江 「ええ、今日はまだ大人しくしてくれています」
手元のケージに目をやりながら、聡一郎さんが言う。
「小渡先生、見当たりませんね」
入江 「電話ではもうこの辺りで待っているからと言っていたのですが・・・」
2人してこの辺りを見回していると、少し遠くからこちらに手を振る小渡先生の姿が見えた。
小渡先生は手にお土産袋を抱えながら、笑顔で近付いてくる。
小渡 「聡一郎、〇〇さん、わざわざありがとう」
入江 「うわ、先生どうしたんですか、その荷物?」
小渡 「土産売り場を巡っていたら、なかなか良い品物ばかりでね」
入江 「いくら何でも買いすぎじゃないんですか?」
入江 「鈴子も連れて帰らなくちゃいけないのに・・・」
小渡 「ははは、これは旅の醍醐味としてなくてはならんものじゃろ」
小渡 「それに搭乗前に全部預けてくるから、これくらいはいいんじゃよ」
入江 「まあ・・・、先生がそうおっしゃるなら、いいんですけどね」
入江 「くれぐれも、鈴子とお土産を一緒のところへ預けたりしないでくださいよ」
小渡 「何を言うとるか、大事な鈴子をそんな粗末に扱うわけがなかろう」
入江 「ふふ、先生にとって、鈴子は大切な娘みたいなものですものね」
聡一郎さんが鈴子の入ったケージを手渡すと、小渡先生は笑顔でそれを受け取る。
小渡 「まあとにかく、今回は本当に世話になったな、聡一郎」
小渡 「〇〇さんにも色々と面倒をかけてしまったが、本当にありがとう」
「いえ、こちらこそ」
入江 「今度は△△と一緒に、先生に会いに行きますよ」
「その時はよろしくお願いしますね」
小渡 「ぜひ来てください。いつでも大歓迎ですよ」
その時、ロビーに搭乗案内のアナウンスが流れる。
小渡 「おっと、そろそろ手続きを進めておかんとな。鈴子も預けなくてはならんし」
小渡 「では2人とも、見送りありがとう」
入江 「いえ、お気を付けて帰って下さいね」
にゃ~
小渡先生が受け付けカウンターへと足を向けた時、
ケージからガリガリという音と共に、鈴子の泣き声が聞こえてきた。
鈴子は聡一郎さんを求めるように、必死にケージの扉をひっかいている。
小渡 「なんじゃ鈴子、寝ていたんじゃなかったのか?」
小渡 「今の今まではずっと大人しくしておったのに」
入江 「今のアナウンスの声で、目が覚めてしまったんですかね」
小渡 「ああ、そうかもなあ」
小渡 「飛行機に乗るまでは、出来れば大人しくしてて欲しかったんじゃが・・・。ほら鈴子、行くぞ」
鈴子は更に大きく鳴き声を上げる。
(まるで聡一郎さんと離れることが分かっているみたい・・・)
小渡 「やれやれ、聡一郎から離そうとするといつもこれじゃ」
小渡 「これ、鈴子。聡一郎にはもう十分甘えたじゃろう」
その時、鈴子が暴れた弾みでケージの扉が開いてしまう。
すると鈴子がこちらへ勢いよく飛び出してきた。
小渡 「お、おい、鈴子!」
「きゃっ!」
ビリッ
入江 「△△!」
小渡 「こら!鈴子!」
私の肩にしがみつこうとしている鈴子を、小渡先生が慌てて抱える。
入江 「ケガはないですか?」
「は、はい、大丈夫です」
(ケガはないんだけど・・・)
鈴子の爪が引っ掛かってしまい、大きく破れてしまったワンピースの肩口を抑える。
バサッ
入江 「しばらくこれを着ていてください」
聡一郎さんが来ていたジャケットを私の肩に羽織らせてくれる。
「ありがとうございます」
入江 「いえ。気にしないでください」
嫌がる鈴子をようやくケージに戻した小渡先生がこちらに向き直る。
小渡 「〇〇さん・・・すみません」
「いえ、大丈夫ですので」
小渡 「ケガがなくて本当に良かったが・・・せっかくのキレイな洋服が・・・」
小渡 「本当に申し訳ない。弁償させてもらうよ」
「そんな、とんでもないです!安物なので本当に気になさらないでください」
小渡 「いや、しかし・・・」
その時、搭乗手続きの最終アナウンスが流れてきた。
入江 「小渡先生、後のことは私に任せてもらって、先生は手続きを急いでください」
小渡 「でもなあ・・・、迷惑を掛けたままで帰るわけにも」
「いえ、本当に大丈夫ですから、どうかお気になさらないでください」
搭乗時間が本当に差し迫ってしまい、
小渡先生は申し訳なさそうに鈴子を連れて私達と別れた。
入江 「△△、大丈夫ですか?」
「あ、はい。本当に大丈夫です」
入江 「咄嗟の事で庇えず・・・すみません」
「いえ、そんな・・・」
入江 「でも、本当に怪我がなくて良かった」
聡一郎さんが、ホッとしたように笑顔をこぼす。
「心配していただいてありがとうございます」
入江 「当然です」
そう言いながら、チラリと腕時計で時間を確認する。
入江 「ではレストランの時間までまだ少しありますから、代わりの服を見に行きましょうか」
「ありがとうございます」
「でも、すみません、行く前からお手間を取らせてしまって」
入江 「いえ、△△が謝ることは何もありませんよ」
入江 「男物で申し訳ないですが、これは店までそのまま羽織っていてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
上着が落ちないように、聡一郎さんがさりげなく肩へと腕を回してくれる。
そのままロビーを抜けて、私たちは空港を後にした。
デパート内のショップには、色鮮やかなドレスやワンピースがいくつも並んでいる。
入江 「△△はどういうものが好みですか?」
「そうですね・・・少し見てもいいですか?」
入江 「ええ。ゆっくり選んでください」
「ありがとうございます」
たまたま目についたシンプルなデザインのワンピースを手に取ってみる。
Aラインシルエットのフェミニンな雰囲気の物だ。
「これ、可愛い・・・」
入江 「あなたが好みそうなデザインですね」
「ええ、普段使いも出来そうでいいかな、と・・・」
入江 「なるほど、確かに色に落ち着きがありますからね」
「ええ。でも・・・自分で選んでしまうとどうしても似たようなデザインの物を選んでしまうんですよね」
「仕事がある日でも着られるものが良いなって思って・・・」
入江 「ふふ、真面目なあなたらしいですね」
入江 「けれどまあ・・・そうですねぇ・・・」
ワンピースを見つめながら、聡一郎さんは考えるように口をつぐむ。
「他の並んでいるお洋服と比べると、少し地味でしょうか」
入江 「地味ではありませんが…、少し大人しすぎる印象があるかもしれませんね」
入江 「もう少し華やかな感じの物でも、△△に似合うと思いますよ」
「そうですか?」
入江 「ええ、その方が△△の美しさをより際立たせてくれる気がします」
そう言うと、聡一郎さんは近くのハンガーラックに目を向ける。
入江 「例えば、これなんかはいかがですか?」
「え・・・」
入江 「△△が選んだ洋服ももちろん似合いそうですが」
入江 「私としてはこちらの方があなたの魅力をより引き立たせると思いますよ」
聡一郎さんに差し出された洋服は、
私が選んだものよりもかなりセクシーなドレス風のワンピースだった。
シルク生地の見るからに高級そうなデザインで、背中が大きく開いたワンピースである。
「確かに素敵ですけど・・・、露出が多くはないでしょうか?」
入江 「そんなことはありませんよ、きっと△△に似合うと思います」
入江 「あなたの魅力は、私がよく分っているつもりですから」
入江 「ひとまず、決めるのは実際に着てみてからにしませんか?」
「・・・え、ええ」
(聡一郎さんが勧めてくれるのは嬉しいけど・・・)
戸惑いながらも、ワンピースを試着してみる。
(思ったよりも背中が開いている・・・。こんな大胆なワンピース、私に似合うのかな・・・)
店員 「お客様、いかがでしょうか?」
店員 「他のサイズもご用意できますので、お申し付けくださいね」
「あ、いえ。大丈夫です」
入江 「着替えたら、私にも見せて下さいね」
「はい・・・今、開けます」
入江 「・・・ ・・・」
「・・・あの、どうでしょうか?」
入江 「思った通り・・・。いえ、それ以上です」
「え、そうですか?なんだか少し大胆すぎる気がするのですが・・・」
入江 「いえ、△△にとてもよく似合っていますよ」
入江 「まるであなたの為に仕立てられたようです」
「ありがとうございます・・・」
聡一郎さんがすっと手を差し伸べてくる。
入江 「いったでしょう?あなたの魅力は、私がよく分っていると」
入江 「どうかこのまま、ご一緒してくれませんか?」
私は、差し出される聡一郎さんの手を取った。
店員 「ありがとうございました」
店員に笑顔で見送られながら、聡一郎さんはそのまま店を後にする。
「あの、聡一郎さん・・・」
入江 「なんですか?」
「この洋服は・・・」
入江 「私からあなたへのプレゼントです。受け取っていただけますか?」
「・・・はい」
(ちょっと恥ずかしいけど、聡一郎さんが選んでくれたっていうのが嬉しいな)
嬉しさと戸惑いが入り混じる気持ちを抑えながら、
私はこっそり聡一郎さんの横顔を見つめてみた。
レストランでの時間は、とても素晴らしいものだった。
幸せに浮き立つ気持ちのままで、聡一郎さんと一緒に自宅へと帰宅する。
「すごく良いお店でしたね。お食事もとても美味しかったです」
入江 「そうですか、△△が喜んでくれたのなら何よりです」
優しい笑みを浮かべる聡一郎さんに、私も笑顔を返す。
「着替えたらすぐにお茶を淹れるので、聡一郎さんはくつろいでいてください」
入江 「ありがとうございます」
入江 「ですが、△△も疲れたでしょうから、あまり気を遣わないでください」
「いえ、そのくらいはさせて下さい。すぐに戻りますので・・・」
そのまま私は寝室へと向かう。
ひとり寝室に入り、壁際の姿見に改めて自分の姿を映してみる。
(聡一郎さんからのプレゼント・・・、これからもずっと大事にしよう)
(・・・だけどやっぱり、これだけ背中が見えちゃってると少し恥ずかしいな)
考えながら、後ろのファスナーへと手をかける。
けれど食い込んでしまったのか、ファスナーが動かなくなってしまう。
(どうしよう)
(無理に引いて破れたりしたら嫌だし・・・)
鏡に映しながらしばらく頑張ってみるものの、食い込んでしまった布はなかなか取れない。
(聡一郎さんを待たせてるんだから、早く着替えないと・・・)
「・・・!」
ふいに、温かい腕が優しく私を包み込む。
入江 「どうかしましたか?少し時間が掛かっているみたいですが」
「すみません、お待たせしてしまって・・・」
入江 「いえ、私のことは気にしなくていいんです」
入江 「なかなか△△が戻らないので、どうしたのか心配になっただけですから」
背中に回していた私の手を聡一郎さんの手が包み込み、
そのまま、そっとファスナーから離される。
入江 「私が手伝ってあげましょうか?」
聡一郎さんの細長い指先が背中へと触れる。
「あの、聡一郎さん・・・くすぐったいです・・・」
入江 「ダメですよ、動いては」
入江 「あなたはそのまま、楽にしていてください」
「でも・・・」
入江 「△△は、そのまま私に身を預けてもらえればいいんです」
入江 「・・・男性はこの時の為に、女性へドレスを贈るのですから」
そう言って、聡一郎さんは私の首筋に優しくキスを落とす。
「・・・っ」
背中のファスナーが、ゆっくりと下ろされていく。
入江 「・・・本当にキレイですね」
鏡越しに見つめ合う視線が熱く絡み合う。
肩から頬へ聡一郎さんの手が移動して、少し強引に顔を振り向かせる。
入江 「この3日間、ずっと我慢していたんです。・・・覚悟してくださいね」
言葉を返すよりも早く、聡一郎さんの唇が私の唇を塞ぐ。
そのままゆっくりと倒れるようにして、傍らのベッドへと押し倒される。
唇が離された瞬間、聡一郎さんの熱を帯びた視線が真っ直ぐに私に注がれた。
入江 「ようやくあなたに、こうしてゆっくり触れられたような気がします」
入江 「ヤキモチを妬いて拗ねるあなたも、とても可愛らしかったですがね」
「もう・・・それは言わないでください」
入江 「ふふ、そうやって素直な反応を見せてくれることが、私は嬉しいんですよ」
入江 「その度に私は、またあなたを好きになっていくのですから」
ネクタイを緩めながら、聡一郎さんは優しく口元を緩ませる。
恥ずかしさから無意識に逸らしてしまう視線を引き留めるように、
聡一郎さんの唇が私の唇を塞ぐ。
入江 「・・・でもやっぱり、こうしてキスをしているあなたの表情が、一番可愛らしいですね」
入江 「このままあなたに、ずっと触れていたくなります」
「聡一郎さん・・・」
入江 「・・・いつだって、私の心をこんなに惑わせるのは、あなただけです」
入江 「今まで我慢していた分、今夜は△△も私に甘えて下さい」
入江 「その分、全身であなたを愛しますから」
ベッドに沈む体が、繰り返される深いキスで徐々に熱を帯びていく。
甘く溶けるような空気が、私たちを静かに包み込んでいた。
HAPPY END
