ここは
森の中にある 小さな赤い屋根の家

ここに住むのは    小さなふたり
名前は
ユノ と チャンミン

ふたりの住む森にも
暖かい春がやって来て
家の周りには
たくさんの花が咲いています

「ねぇ ユノ。昨日まで蕾だったのに、もうあんなにたくさん咲いてるよ♪」

窓を開けて 嬉しそうに眼を輝かせて
ニコニコの笑顔で話すのはチャンミン

「ん~?あ、ほんとだな~。」

ちょっと眠そうに
チャンミンの後ろから覗くのはユノ

眠そうなユノに 早く早くと急かして
ふたりは森の中へ
ある場所を目指して歩きます

「もう咲いてるかな~。」

「ん~。こんなに天気が続いたから、きっと咲いてるさ♪」

ちょっと心配そうにしてるチャンミンに
ユノが優しく答えます

「今年はどうかな?たくさん咲いてるかな。」
「あぁ。去年よりたくさん咲いてるだろ」

ふたりは何処に行くのでしょう

手を繋いで歩いていると
あちらこちらから鳥の鳴き声が聞こえて
道端には子うさぎ達が遊んでいます

風が吹けば
青く繁った木々の若葉が揺れて 
ふたりのもとに木漏れ日が降り注ぎます

少し小高い拓けた場所が見えてくると
どちらともなく駆け足になり
一目散にお目当ての場所に

そこには
1本の垂れ桜がありました

「…咲いてる」
「あぁ。咲いてるな…」

まだ桜の木としては子どもでしょうか
周りには他の木々はなく
その桜の木だけが立っています
そんな垂れ桜でも
ふたりにとっては大きな木です
近くによって見上げて
ふたりは微笑みなら見つめています

満開にはもう少し
けれども
たくさんの花を咲かせた垂れ桜
風が吹くと枝が揺れて
桜の花がサワサワと笑うようです

この垂れ桜
数年前に  里から来た人が
この場所に植えたのです
たった一人で来た その人は
植え終わると  その場にしゃがんで
愛しそうに桜の木を見つめていました
そして そっと手を合わせて
何か呟くと
また
里に戻ったのです

小さなふたりは
たまたま近くに山菜採りに来ていて
こっそりそのようすを見ていました

あれから毎年
ふたりはあの日と同じ日に
この垂れ桜に会いに来ます

桜を植えた あの人は

ふたりと同じように
毎年 一人でここに来ています

「もう、あの人は帰ったんだね。」
「そうみたいだな。」

「ちゃんと、いろいろ話ができたのかな。」
「あぁ。できたみたいだぞ。」

チャンミンには分からないけど
ユノには
垂れ桜が嬉しそうにしていることが
伝わります

”あの人が 会いに来てくれた…元気そうで良かった…”

「桜の木が、言ってるの?」
「うん。喜んでる。きっと大切な人なんだな」

ふたりは風に揺れる垂れ桜を見上げて
にっこりと笑いました

「じゃあ、俺達も帰るか」
「そうだね。お腹も空いてきたし。また、来年会いに来るからね♪」

垂れ桜にバイバイして
ふたりは手を繋いで
もと来た道を歩いていきます




小さなふたりの後ろ姿を見ながら

”ありがとう…”


垂れ桜が枝を揺らします



ユノがクスッと笑って
チャンミンの手をギュッと握って
チャンミンは驚いたけど
ユノが嬉しそうに笑ってたから
同じように手をギュッとして

小さな赤い屋根の家に

帰っていきました


ある春の日の できごとです。