対象喪失。
大切だったものを失うということを「対象喪失」と言う。
最も大きなものは愛している人が死んでしまうこと。
それに続いて、配偶者や付き合っている奴にフラれることも対象喪失だし、大切に育てていた薔薇が枯れてしまうことも紛れもなく対象喪失ということができる。
一方、「実在していないもの」を失うことも対象喪失に当たる。
例えば、会社員でいえば降格(偉い肩書きがなくなる)、学生でいえば勉強や運動での順位の低下等、自分が自信を持っていたところや自分らしさに関係するものならなんでも当てはまる。
それは人によって違くて、例えば歌手にとったら声が出なくなることは一般の奴が声を失うことよりも、文字通り「致命的」にショックな出来事ということができる。
さて、対象を喪失した時、人間の反応というのは比較的同じ経過をたどるということをとりあえず知っておこう。
それは、①否認、②怒り、③取引、④抑うつ、⑤受容の5段階。
①否認
「え?嘘でしょ?嫌だ、変な冗談言わないでよ」
②怒り
「ふざけないでよ!なんでこんなことが起こるのよ!」
③取引
「私が自分のことばかり考えていたから罰が与えられたんだわ。これからはちゃんとするから、お願い、あの人を返して」
④抑うつ
「何をしても願っても、あの人は帰ってこない。私、辛くてどうにかなってしまいそう」
⑤受容
「辛くて仕方ないけど、私はあの人を忘れないで生きていく。それだけが私にできることだと思うから」
こんな風に必ずしも順番通りにはいかないことも多いけど、だいたいは5つの段階を経て、対象喪失を乗り越えてゆくもの。
だから、もしも友達が何かを失って辛そうにしている時は「元気出して」とか「前向きにいこうよ」とか励ましの声をかけても無駄。
むしろ、「そんなこと言われても元気出ないよ、前向きになんかなれないよ、ほっといてよ」と思われてしまうのがオチ。
じゃあどうするかっていうと、落ち込んでいる友達をちゃんとそのまま落ち込ませてやるってこと。
そんで、そいつの側にそっと居てあげる。
抑うつ(落ち込む)というのは、人間にとって次のステップにいくために必要な行為だから、それを無闇に邪魔してはいけない。
あまりに状態が悪かったら、カウンセリングを勧めておく。
そして、できれば最初は付き添ってやる。
一方、中には失ったものが大きすぎて、①否認、の状態が長く続いてしまうこともある。
認めてしまうと辛すぎて心がバラバラになっちまいそうだから、感情を切り離してしまう。
具体的には、悲しいことが起きたのに「頭ではわかっているんですけど、実感がなくて、泣けないんですよね」といった感じ。
あるいは、「平気平気、不思議だけど全然辛くないんだよねー」とあっけらかんとしていることもある。
そういう時は、対象喪失を乗り越えてない場合が多いから、あとで一人になってズドーンと落ち込んだりする。
もし、そんな感じの人に会ったら、しばらく気にかけて声をかけてあげてほしい。
泣けるようになったら一安心。
ただし、無理やり泣かせようとする必要はない。
事実を受け入れようっていう心の準備が出来てなくて泣けないんだから、それはそれで大事にしてあげよう。
あとは、ちゃんと怒れるかどうかもポイント。
悲しい出来事は、本人にとったら突然で理不尽なことだから通常頭にくるものなんだが、その怒りを出せないと変な風にイライラしたり、ピリピリしたりしてしまう。
怒るってのも大切な行為なわけです。
精神科やカウンセリングに通う人間のイメージは、泣いている奴や落ち込んでいる奴だと思われがちだけど、実際には、「泣けない人」や「怒れない人」、「落ち込めない人」も多い。
そんな時には、話をよく聴いてあげて、その人がどの段階にいて、次に進むためにはどんな状態になったらいいか考えて、感情に働きかけていくといったことをカウンセリングや入院中の看護で行っている。
明るく楽しく元気よく、そんな風にだけして生きるなんてできっこない。
無理してネガティブな感情を抑え込んじまうとろくなことにならない。