寄席にっき

寄席にっき

ふとした事がきっかけで初めて行った新宿末廣亭、そこで初めて生の落語に触れたのが約半年前でした。今では暇を見つけては寄席通いです。
そこで半年目を記念して、鑑賞記録を兼ねたblogを始めてみます。

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今年初めての鈴本です。




昼に比べて夜の時間が短いのは、緊急事態宣言のため。
こんなのは今年で最期になりますように。



◆柳亭左ん坊【道具屋】
◆柳亭燕路【蝦蟇の油】
◆柳家小菊【俗曲】
◆春風亭百栄【露出さん】

夕暮れ時の街角でいきなり娘たちの前に現われコートの前をはだけて裸体を見せつける露出狂生活を25年間毎日続けている男。女性の叫び声が聞きたいが故に休み無く頑張る毎日。

しかし、最近は見せつけても「こんにちは」「お疲れ様です」と挨拶をされ、毎日同じ時間に出るので町内の時計代わりにされている。町の治安を護るべき小泉巡査も、以前露出さんが川で溺れた人を助けて以来、この「露出さん」に対しては目くじらを立てていない。よく地域猫が住民に容認されているのだからと、ノラ犬ならぬ「ノラ人間」として放置している。

それどころか、最近は立ち話をしたり悩みを打ち明ける人もいたりする中、ある女の子からは「おばあちゃんから三代、散々見せつけられてるからもう何とも」と言われて、「もうそろそろ潮時か」と引退を決意する。「やめちゃうの? 寂しいな」と言う女の子を相手に最後のパフォーマンスを見せる・・

その最後の女の子の突き放したような台詞に爆笑でした。


◆入船亭扇辰【紫檀楼古木】

私はきちんとした落語ですよ(笑)の後は、昔あって今は無くなった仕事として、キセルの竹の部分を替える羅宇屋がある・・・と始まったのが「紫檀楼古木」

ある日の夕方、羅宇屋が商売道具を持って歩いていると、小綺麗な家の下女が、「うちのご新造が取り替えをたのんでいる」と呼び止める。
 すげ替えが終わりキセルを渡すと、女中が女主人に渡しに行くが、中でご新造に「むさ苦しい羅宇屋で」と大声で言っている。若くて役者のような羅宇屋を期待していた新造は、「あんな汚い、むさ苦しい爺さんになぜ頼んだ」と、女中に当たっている。女中は、「頼むように言ったのはご新造さんで・・・・」、新造「でも汚な過ぎるじゃないか」と、「汚い、汚い」の連発だ。

 羅宇屋は苦笑いをして半紙に何かすらすらと書いて、「これをご新造さんへ」と、女中に渡した。女中はいやいやながら新造に渡すと、達者な筆で、「牛若のご子孫なるかご新造のわれを汚穢し(むさし・武蔵)と思い給いて」、新造はびっくりして紙に「弁慶と見たは僻目か  すげ替えの 鋸もあり 才槌もあり」と、見事に返した。
 これを読んだ羅宇屋も「楽しい楽しい」と、更に「弁慶にあらねど腕の万力は煙管の首を抜くばかりなり ふるき」、新造は「まあ、面白ねえ」で、名前を見てまたびっくり。汚い羅宇屋の爺さんは旦那様の狂歌の先生の、そのまた上の先生の紫檀楼古木であった・・・

もとは、キセル問屋の旦那だったが、狂歌に夢中になりすぎて番頭に店を潰され、それ以来行方しれず。それがこんなところで、と驚くご新造に今一つ納得が行かない下女。嫌みを言ってご新造からの羽織を渡す下女に断る古木の清々しい雰囲気。キャラクターが際立って、立ち去る古木の姿が目に浮かぶような落語でした。



◆古今亭文菊【権助提灯】

冒頭は、お馴染みの「このキャラクターをどうにかしようと思うけど、生まれ持ったこの気品がねぇ」でしたが、確かにパッチリまつ毛が美しい風貌です。

落語は、ある商家で夜遅く、仕事を終えた旦那が床に着こうとしたら、奥さんが「今日は風が強いから、あのこのところに」と言います。「あのこ」とは、奥さん公認の妾さん。微笑みの陰に隠れた冷たい瞳に気づかず「良くできた妻だ」と能天気な旦那さん。お供に権助をつれて妾宅に。
喜んで旦那を迎えたお妾さんに「実はうちのが・・」と言うと「このままお迎えしては、愚かな女になる」と、旦那を返す。仕方なく本宅に帰れば、本妻に「私には女の意地がある」と言い返され、妾宅に行けば「私にも女の道がある」と、旦那を介した代理戦争の感(笑)
一晩うろうろする旦那に付き合わされた権助が楽しそうに見えるのは、気のせいではないと思います。

微笑みの陰に冷たい微笑みの本妻に、若いながらも強気に道を貫く目をお妾さん、文菊師匠の落語は、女性が際立ちます。


◆柳家喬太郎【稲葉さんの大冒険】

トリは喬太郎師匠。
開口一番「不要不急の会にようこそ。」(笑)

寄席が終わるとちょうど飲食店が閉まる8時、とはいえ街にはやっている店もあるんだとか。
そんな人とは違いルールをしっかり守る人が主人公・・・と始まったのは「稲葉さんの大冒険」。円丈師匠がさん喬師匠のために書いた噺。

毎日決まった時間の決まったバスに乗り、同じ時間に家に着くサラリーマンの稲葉さん。本人の性格故に寄り道はせずに同じ生活を繰り返す。
その日も、会社からバス停に向かっていたが、配っていたティッシュを受けとる事から、生活のリズムが狂いだす。


もらったティッシュは、いわゆるピンクチラシの入ったティッシュ。店の名前は「ファッションヘルス マニファクチャー」。全て手作業?と思いながら、この性格で決して行かれないから来世で・・と呟きながら、奥さんに見つかりたくないので、帰りのバスが来るまでに捨てる事に。
近くの公園を見つけ、松の木の根本に埋めようとすると、住む犬を連れた老人に話しかけられる。近くに住むという老人は「こんなところになぜいる?」と話しかけてきたが、稲葉さんは答えられない。老人は稲葉さんが団地住まいと知ると「団地のような場所にいる人はベランダでガーデニングがしたくて土を取りに来たのだろう」、「もしかして釣りが趣味で、ミミズを取りに来たのだろう」・・・ビニールにいっぱいの土とビニールにいっぱいのミミズを稲葉さんに渡すが、稲葉さんの真意は、いうまでもなく早くティッシュを埋めたいから、どこかに行って欲しいだけだけ(笑)
それでも、老人は「嬉しい顔が見れない」と、立ち去ろうとしない。そのうち、連れているペスと言う犬にも「アイデンティティを崩壊させる」と、「江戸家小猫」と名前を呼ぶ。呼ばれた犬は、ウグイスの泣き真似をしようとして(笑)上手くいかない。
更には「きっとこれがあなたの望みだ」と、稲葉さんの背中にとんでもないものをくくりつけ、ついでにビニールいっぱいの土とミミズを背中にくくりつけ、稲葉さんがあれほど捨てたくて頑張ってたポケットティッシュを稲葉さんの背広の胸ポケットに入れて、満足そうに立ち去る。
もはやバスに乗れず、背中に大荷物を背負って、ひたすら家に向かって歩く稲葉さん。

道行く人が振り返る異様な姿。その中には、露出生活に励む露出さん、商売をしてる羅宇屋さん、提灯片手に旦那を案内している権助などが登場(笑)。皆が一様に振り返る中、ようやく団地にたどり着く。
その頃、稲葉さんの奥さんは、隣の仲良しの梅原さん(柳家権太楼の本名)に、旦那がすごい姿で帰って来たことを伝えられた・・・


こういう風に、前の人の落語の登場人物が出てくるのは、寄席ならではかも。楽しめました。



やっぱり少ないなあ。