ここは森に囲まれた小さな町。カダッグ。
小さなこの町で小さな葬儀が行われていた。
見るとそこには年老いた茶髪の男性が目を閉じて横たわっていた。
皆は、俯いて泣き喚いている。
そこに一人。唇に弧を描く者がいた。
暖かい朝。
小さな町には小さな家。外には子ども達が走り回っている。
ザッとみると家は十軒ほどしかない。
その十軒の中の一軒から、バシンと叩くような音と大きな声が聞こえた。
外で走り回っていた子ども達は何事かと走るのをやめた。
大きな泣き声が聞こえてくると思い身構えたが、家からは何も聞こえない。
少しして、茶髪の子どもがゆっくりと家から出てきた。
その頬は赤くはれ上がっている。叩かれたのはこの子どものようだ。
その子どもは他の子供とは雰囲気がちがった。
笑っているのだ。ニコニコというのがよく似合った笑顔で。
笑っているのとは正反対に痛々しく晴れ上がった頬は手形がくっきりついてしまっている。
子供の名は、ベンク。昨日、町で唯一となった茶髪の子どもだ。
「・・・・――ぃのに。」
ベンクは笑顔で何かをつぶやくと町の出口へ走っていった。
森の中の道は整備なんかされていなくて歩くことさえ困難だ。
平たい道が続いてると思いきや、いきなり窪んでいたり。
やっと上ったと思ったら、何個も岩があったり。
この森の道の悪さのせいでカダックの人々は町を出ることができないのだ。
道はどんどん悪くなっていく。
呼吸はどんどん乱れていく。
足はどんどん痛くなっていく。
それでもベンクは笑っている。ニコニコと。
半日もかけて進むといきなり目の前が明るくなった。森から出たのだ。
涼しい風がベンクの頬を撫でた。
「これが外の世界・・・・。おじいちゃんの言っていたとおりだ」
目の上に手を当て直射日光を避けている。
ベンクは今までで一番の達成感を感じた。
いまは亡き祖父が話してくれた森の外。青い空はどこまでも広がっていて、綿のような雲はおいしそうで。太陽は地面全体を照らしていて。夢のような世界だった。
――カダックでは青い空は丸く切り取られたように狭くて、綿のような雲は少ししか見えなくて。太陽は一番高くならないと見えないのだ――
御伽噺のような世界に来てしまったのだ。もう引き返せない。
ベンクは歩き出した。追っ手は来ないだろう。なにせベンクは嫌われているのだ。
――気持ち悪い―― と。
一話目。
