「おらぁ!」


花のパンチが刃牙の顔面に決まる。


「おおお!」


刃牙の負けじと花の顔面にパンチを決める。


もはや技術など捨て去った文字通り「殴り合い」。


花,刃牙の順で殴り合っている。


どちらも決して組技や投げ技など使おうとしない。


それどころか蹴りすらも使わない。


ただ,2つの拳でお互いの体を殴っているだけである。


端から見ればただの子供のケンカと見えるだろう。


しかし,今闘技場で行われている殴り合いにはどこか神聖な趣さえ感じられる。


殴り合っている2人の顔には苦しみなどまるで感じられない。


お互い,一発一発を楽しんでいるように見える。


実際,刃牙も花もこの殴り合いを心から楽しんでいた。


(ここまでの奴は俺の街にはいなかった。鈴蘭にも,鳳仙にも,武装にも,天地でさえここまでじゃなかった。

だけど,コイツは!!)


花がそんなことを思っている。刃牙も考えていた。


(すごいな!ジャック兄さんとも真正面から殴り合ったけどここまでじゃなかったし,オリバのオッちゃんとも違う!本当に自分の力のみで闘ってる感じだ!コレなら,あの領域により近づけるッ!)


やがて2人の顔に笑顔が浮かぶ。その直後,お互いの全力のパンチが決まる。


闘技場の壁に激突する2人。


しかし,すぐに立ち上がり再び闘技場の中央に並び立つ。


「ハァハァ・・・・」


「ゼェッ,ゼェッ・・・・」


お互い息が切れている。


やがてフッと笑みを浮かべる2人。


「どうやら・・・お互い限界が近いみたいだね・・・花さん・・・。」


刃牙が言う。


「みたいだな・・・。んじゃあ細かいことは辞めるか・・・。全力で,撃とうや・・・刃牙。」


刃牙が笑顔で答える。


そして,2人とも振りかぶり,フルスイングのパンチを繰り出す。


もはや,ケンカとすら呼べぬほどの壮絶な殴り合い。


振りかぶって,殴る。振りかぶって,殴る。これが繰り返される。しかし,三回目あたりから


2人の間に差が生まれてくる。


花の動きが鈍り始めたのだ。


やがて花のパンチが空を切る。


刃牙は顔面に決め続けている。


(クソッ,もうこの一発にかけるしかねぇ・・・。)


花が思いきり振りかぶり,渾身の一撃を放つ。しかし,その一撃も刃牙は耐えきった。


(悪い・・・みんな・・・。)


そう,花が思った瞬間,今までの中でも一番強烈な一撃が花の顔面に決まった。


闘技場の隅まで吹っ飛ばされる花。そしてそのまま意識が飛ぶ。


起きあがって来ない花を見て,ゆっくりと右手を挙げる刃牙。


アナウンスが叫ぶ。


「究極トーナメント第一回戦,壮絶な殴り合いを制し,二回戦へと駒を進めたのは我らが王者,範馬刃牙だァッッッ!!」


歓声と拍手が会場を包み込む。


それを聴きながらゆっくりと退場していく刃牙。


観客は全員バキコールを送っている。




数十分後,控え室にて目を覚ます花。部屋には花組の面々と光政,将悟が集まっていた。


「大丈夫か?」


将悟が声をかける。


「すさまじいモン見せてもらったよ,花。」


光政も言う。


「そうっすよ!!すごかったっす!自分,感動しました!」


佐島が大声で言う。


しかし,花は上の空である。未だに状況を把握できない。


そして数秒後,口を開く。


「俺・・・負けたんだよなぁ・・・。」


その後,部屋の面々に向かって深々と頭を下げる。


「すまん!お前らを裏切った!」


全員が動揺する。その時,不意にドアがノックされた。


武藤がドアを開けるとそこには刃牙が立っていた。


「花,客だぞ。」


武藤が刃牙を通す。


「てめー何しにきやがったんだコノヤロー!!」


佐島が突っかかっていく。迫田が佐島の頭をどつく。


「何にでもつっかかってんじゃねぇバカ!だけど,ほんとにお前何しに来たんだ?事と次第によっちゃただで替佐ねーぞ。」


迫田が睨む。


「一言,お礼が言いたくて・・・。」


刃牙が口を開く。


「迫田。ちょっとどいてくれ。」


花が言うと迫田がその場をよける。


刃牙が続ける。


「おそらく,今回のこの闘いが無ければ,俺は一生あの領域にたどり着けなかったし,立つきっかけすらなかったと思う。技じゃなくて意地。気迫。根性。自分になかった数多くの物を手に入れることができました。全部,あなたのおかげです。花さん,本当にありがとうございます。あなたのおかげで,俺はまた奴に近づくことができた。」


刃牙の話が終わると花が刃牙に聞いた。


「奴って誰だ?」


刃牙が答える。


「範馬勇次郎・・・。俺の,父です・・・。」


その言葉にその場の空気が凍り付く。


「地上最強の生物じゃねぇか!」


冷静な尾崎が珍しく声を荒げる。


しかし,花は笑顔を浮かべて刃牙に言う。


「刃牙!必ず勝てよ!そんで親父もぶっ飛ばしちまえ!」


花が親指をたてる。


「花さんのその期待に・・・全力で,答えますッッッッ!!!」


刃牙が深々と頭を下げる。花も笑顔で答える。


誰言うともなく,笑いが起きる。部屋の面々が刃牙を激励した。


究極トーナメント一回戦,範馬刃牙,勝利。