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トトリの信常廃屋ブログ

仕事に加え、同居人とのハチャメチャな出来事を縦糸に毎日を過ごすのんきなブログ

今日は残暑払いということで蔵州の居酒屋に来ている。

 

「酒はどこで飲んでもいいもんだね。だけど和尊さんの酒の弱さはどうにかならないの?。弱いと山間部の酒豪や妖怪のみんなに潰されちゃうよ」

 

そう言いながら夏月は日本酒を飲み干す。さっきまでギリギリまで注がれていたコップはあっという間に空になった。

 

「夏月ちゃんは酒が強いからいいよな。天狗は皆総じて酒をたしなんでいるもんなんだろ?」

 

「必ずしもそうじゃないよー。弱い人もいるにはいるけど少数派だね。ちなみに私だって天狗の中に入っちゃうと弱い部類なんだよ。花隠さん今度はこれをお願い」

 

花隠に頼んだのは25度の比較的高濃度の酒だ。こんなのを水を飲むようにしてコップを開けるんだから普通の天狗はどんなに酒に強いのかと思うと空恐ろしくなる。

 

「だから和尊さんも頑張ってお酒強くなってよ」

 

「酔っぱらって人に迷惑をかけるのは勘弁じゃがの」

 

横から会話に入ってきた穂美は最初のビールをゆっくりと味わうように飲んでいる。彼女の口の上には綺麗な泡の髭ができていた。

 

「和尊自身が酒に弱いとわかっているからペースがゆっくりなんじゃし、無理に飲ませたら足もともおぼつかん。それで酒に強くなりたいというのなら宅飲みで頑張るしかないのじゃが」

 

穂美自身も決してアルコールに強いわけじゃない。つい先日ワインの試飲で潰れかけたばかりなのは記憶に新しい。今飲んでいるビールの減りが悪いのもそこを気にしているのかもしれなかった。

 

「そう言えば酒というと和尊とあまり一緒に飲む経験がないからどういうの物が好きなのか知らないのじゃ。ちょっと教えてほしいのう」

 

「あ~、それ私も聞いてみたい。大抵の物は飲んだことがあるからどんな変化球が来てもいいよ」

 

和尊自身酒に弱いこともあって矢中に来るまで日本酒をほとんど飲んだことがなかった。しかし背伸びするとすぐにばれそうな気がしたので素直に答えることにする。

 

「リキュール、サワー、カクテルが俺にとっての酒かな。ビールは苦いから俺はあまり好きじゃないんだ」

 

「あれ~、日本酒が出てこなかったけど」

 

「分母が少ないからどれが美味くて好きかなんてちょっとわからない。答えにならなくて悪いな」

 

「ぶー、つまんないの~」

 

「果実酒が好きなのはなんとなくわかるがの…」

 

二人は少しがっかりした表情をして飲みなおす。

 

「やっぱり甘い系か。私は断然辛口とかにするぜ。ちょうど夏月が飲んでいるようなやつだな」

 

紫音のコップは白ワインが入っているがこれは三杯目である。その前は彼女の言う通り辛口を飲んでいた。彼女もぶどう郷でハイペース過ぎて穂美と同じ状況になったが、今日はセーブして飲んでいるせいか偉く調子がいい。

 

「花隠、お前のんびり飲んでるけどよー。本当は浴びるように飲みたいんじゃねえのか?狸の置物は徳利を片手に携えてるくらいだしこの量じゃ物足りねえだろ?」

 

横にいた花隠に身体を押し付けて紫音はにやつき、自分のコップを彼女のコップに入れるふりをする。

 

「飲んでもいいですが私は潰れるまで行きますよ?財布を握っているのは私ですけどそれなりの金額しか持ってきていませんし、そうなったらオーバーフローしたお金は紫音に払ってもらいます」

 

「そ、それならいいんだ。無理に飲めとは言ってねえしさ…」

 

全く笑っていない花隠の顔を見て慌てて紫音は取り繕い、酒を浴びるように飲んだ。

 

「紫音一本取られたな。おそらくこの中で一番酒に強いんじゃないか?」

 

木陰は食べ終えた焼き鳥の串を皿に置く。彼女もそれなりのんでいるがほんのり顔に赤みが差していた。

 

「土州が隣にありますのでそれなりに強くないといけません。かつてはあまり飲めなかった私もここ百年の間に随分と飲めるようになりましたし、量をこなすことですよ。和尊さん」

 

酒豪になる前に衰えそうなのは突っ込んではいけないのだろう。

 

「遠い先の話なんぞしてもしょうがないのじゃ。それよりも数分後の近未来のことを考えた方がよっぽどいい。チヂミや刺身盛り合わせそして厚焼き玉子がそろそろ来る時間なのじゃ」

 

「ほどほどにしとけよ?後で歩けなくなってもおぶってやらないからな」

 

「それならだっこしてもらうかの。それならいいじゃろ?」

 

「それは無理だぜ。和尊の前の部分は私のもんだからな。穂美には絶対に譲れん」

 

「ほう、言ったのう。それならどちらが先に食い倒れるか勝負じゃな」

 

「その勝負乗ったぜ!」

 

二人はお互いの目から火花を散らす。そんなに二人とも歩きたくないのかと。すると木陰が二人の手から箸を取り上げてしまう。

 

「木陰、何をするんじゃ!これから譲れない戦いじゃというのに!」

 

「バカなことをするんじゃない。和尊が戸惑っているじゃないか。それに二人とも食いすぎで動けなくなると勝った方はいいが負けた方は誰が運ぶんだ。人のことを考えろバカモノ!」

 

木陰に叱られ一気にテンションが下がった二人は仕方なくじゃんけんで和尊の背中を争った結果、紫音が勝って家に帰るまでの間彼の後姿を独り占めにした。