木槽天秤しぼり
大昔はこの天秤しぼりも各地にはあったようですが、油圧式に
変わり、連続式自動搾機に切り替わっていきました。
搾りに要する手間、技術、器具の保管、能率の問題もあり、木槽天秤しぼりは
ほとんど姿を見ることがなくなったとされていますし、おそらく全国でも
上原さん以外にあるのかどうか、探す方が難しいと思われます。
上原さんもかつては連続式自動搾機を使用していた時期もあったのですが・・・
実際に飲み比べてみて、木槽天秤しぼりを大事にしようと決めたそうです。
連続式自動搾機に比べると3~4倍の時間を掛け、ゆっくりとお酒は搾られます。
搾られる量が連続式自動搾機を100とすると、90%程度しか搾れないのですが、
最後に出てくる押切り(雑味の多い部分)が酒に出ない事がメリットです。
もしかしたら、この部分で自分は不老泉のピュアさ、身体に馴染んでくる
優しい旨味を感じているのかもしれません。
この後、蔵の貯蔵庫を見せていただいて、瓶貯蔵が基本。ですが、一部商品は
タンクで貯蔵というスタイルでした。
二回火入れの商品としては、不老泉の赤ラベル、紫ラベル、旨燗、からくち。
それ以外の火入れ商品は一回火入れ、亀の尾、備前雄町、滋賀渡船等ですね。
お米に関してですが、特に亀の尾への取り組みは上原さんは草分け的存在で、
日本でまだ10蔵使用していたかどうかという時代の頃から、使い続けてきました。
自分も今年の2月になってから、不老泉 山廃純米吟醸 亀の尾を飲みましたが、
後味のやわらかさ、しなやかさ、綺麗な旨味の中にある力強いコクに感動。
備前雄町の火入れのシルクのような滑らかさも、生原酒とはまた異なる趣きがあり、
火入れの米違いシリーズも面白いと感じている所です。
少しずつ契約農家さんのお米を揃えていって、およそ50種類を超す豊富な品揃えが
現在の形になっています。その中には無濾過生原酒、にごり、うすにごり、中汲み、
などの違いや部位取りもあります。
特にお燗のオススメとしては、(他の商品でもお燗にしても美味しいですが)
不老泉 赤ラベル 山廃特別純米原酒 参年熟成 たかね錦
*力強く、濃厚、熱燗がオススメ
不老泉 紫ラベル 山廃純米吟醸原酒 山田錦(荒走りと責めのブレンド)
*赤ラベルと比べると飲み口優しい、しなやかなタイプ
不老泉 旨燗 山廃純米酒 山田錦65
*ライト燗酒、カジュアルなタイプで2年に一回醸造されます。
基本的に不老泉は一年近く蔵内でじっくり熟成させてから出荷されます。
生原酒でも、秋以降に出てくる商品も多いです。
上原さんの話を聞いて面白いと思ったのが、ひやおろしです。
夏に開かれる呑みきりのイベントでは、一般のお客様を交えておよそ300人で
全てのお酒を利き酒して、アンケートをとり、かつ、蔵としてもスタッフと
吟味した上で蔵出しが決まるという、ひやおろしは、ファン投票的なおもしろさと、
年によっては違う商品がひやおろしとして蔵出しされるという楽しみも。
上原さんは製造に関しては杜氏さんに一任しているものの、造りたいお酒の
ビジョン、哲学、方向性がハッキリと定まっているので、まさに信念の酒造りです。
製造工程を振り返ると、機械らしい機械は洗米器と自社精米機だけだったかなと、
そのほとんどが気の遠くなるような手間や時間をかけて、労力を惜しまずに
手作業中心です。
将来の目標は、全て蔵付き酵母ということになるのでしょう。
およそ28年前から続けてきた山廃仕込み、蔵付き酵母という伝統。
そして木槽天秤しぼり。この蔵でしか表現できない唯一無二の味。
なぜ現在になって不老泉にはまる人が多くなってきているのか?
自分も最近、知れば知るほど、不老泉の商品から多くの事を教わります。
設備投資、機械化、省力化が増えている日本酒業界の中にあって、
伝統の味を維持していく不老泉の存在は、大変貴重なものです。
商品が多いだけに今夜はどの不老泉を飲もうか、今夜はどの不老泉に出会えるか、
そうした楽しみもまた、ゆっくりと味わいたい不老泉の魅力の一つなのでしょう。
革命君 齋藤 哲雄(2019年2月18日見学)
追記 この絵は先代杜氏の山根さんが書き残したもので、今でも大事に
保存されているそうです。蔵元と杜氏さんの信頼関係、絆の強さは現在も
しっかり続いています。