【テーマ・ほけんたいいく】
若いころから
ときどき耳に
軽いトラブルが起こります。
子どものころ
アレルギー性鼻炎と
中耳カタルと診断され
毎週耳鼻科に通いましたが
いつのまにか
通わなくなり
そのままにしていました。
中学生のころからか
ときどきひどい耳鳴りと
突然音が頭のなかに籠るように
聞こえづらくなるように
なりました。
病院ぎらいと
心配性の母のため
誰にも言いませんでした。
いつか聴こえなるなるのでは
そんな不安も
あったと思います。
大学生になって
保険証を持ち出すことが
比較的容易になり
耳鼻科をたずねましたが
なんとか性中耳炎
といわれ
症状が出たときに
その都度来院するように言われ
面倒になりました。
そのころには
わたしは気づいていたのだと思います。
みみとこころの関係に。
みみに不安のあるときは
ベートーヴェンを思いました。
ピアノの脚を全部切って床に置き
床にみみをつけて振動を感じながら
作曲をしたという逸話を
そのころに知りました。
不思議とそうすれば
病院に行く気は失せました。
おとなになり
音楽から身もこころも
遠ざかると
わたしのなかからは
ベートーヴェンも去りました。
そして耳鳴りとめまいは
激しさを増し
他の症状も相まって
健康は損なわれていきました。
だんだん
みみが詰まることくらい
どうでもよくなったころ
痛みを伴って
外耳のあたりから
出血するようになりました。
おそらくは
よく聴こえないことが原因で
みみをかきむしっていたのだと
いまでは思います。
でもそのときは
自分の無意識の行為が原因だとは
考え及ばずただ怖くなって
数年ぶりに耳鼻科にいきました。
医師は首をかしげながら
軽い炎症はあるけれど
大したことはないと言いました。
一応軟膏出しときますから。
そう言われて処方された
薬を薬局で受け取ったとき
驚きと共に目が覚めた
そんな気がしたのを
よく覚えています。
首をかしげながら
大したことはないと言った
その傷のために出されたのは
ステロイドでした。
強い薬ですから
あまり長期には使わないでね。
薬局の女性は言いました。
わたしはその薬は
封を切らずに捨てました。
いまでも
ときどきみみは聞こえづらくなるし
ごくわずかですが出血したり
することがあります。
いつか聴こえなくなるのでは。
そう思うこともあります。
電子ピアノを弾くときに
ヘッドフォンをするのが
怖いと思うときもあります。
この音楽をいつか
聴くことができなくなるのでは。
この小さな不安を発端に
わたしは漠然と死を思います。
外側の音が聴こえづらくなるとき
内側の声にみみを澄ませば
ほんとうに聴きたかったものが
聴こえてくるのではないかと
最近は思い始めています。
死ねばみみは聴こえなくなります。
ただそのことを思うだけで
いま聴こえているものが
奇跡のように思います。
いま以上を望みすぎては
いまある健康を損なうだけ。
聴こえるうちに
聴こえるものを
聴こえるぶんだけ
聴き続けたいです。
いま
ベートーヴェンの
ピアノソナタを
練習しています。