虫が触れない、マッチでうまく火がつけられない……。最近こんな新人教師が多いとして、東京都教育委員会が小学校教員の内定者に理科の苦手克服講座を開いている。始めた昨年は任意参加だったが、今年はほぼ全員を対象にする。各地の教委も試行錯誤している。
 東京都江東区の区立南陽小学校。「見るのはいいけど、触るのはちょっと……」。教員1年目の小薗美穂教諭(22)は、担任の5年生の教室で水槽のザリガニを見ながら苦笑いした。
 大人になり、生き物がどんどん苦手に。児童はカエルやカマキリなどをつかまえてくるが、飼育は児童に任せている。大学では講義が中心で、生き物を扱う理科の観察の実習はほとんどなかったという。
 ザリガニは、周囲の少ない自然環境を少しでも補おうと、学校が購入し、各教室に配った。同校の教員33人は平均36歳で、飼育に戸惑う人も。伊藤秀一校長は「都会育ちで自然体験が少ない教員が増えた。ふれあいを通して、生き物を大切に思う気持ちを先生にも持ってもらいたい」と話す。
 理科が苦手な教師が増えているという話を校長らから聞いた都教委は昨年、都内の公立学校で採用する教師の内定者を対象に、理科の苦手克服講座を始めた。年1回開催し、大学教授らが実験のやり方を教える。
 昨年11月~今年1月には計6日間の講座に200人が参加。東京都日野市の多摩動物公園でカマキリの捕まえ方を学び、カブトムシの幼虫を手にのせたり、モンシロチョウに蜜を吸わせたりした。虫に触れるようになった参加者もいた。
 今期も同時期に開く。昨年の講座で効果が出たとして、中途採用などを除く小学校の内定者全1200人を対象にする。
 都教職員研修センターは「団塊の世代の大量退職でベテラン教師が減るなか、学校現場で新人を育てるのが難しくなっており、全体で補う必要がある」と話す。
■「理科苦手」増える
 小学校の教員に理科を基礎から教える取り組みは広がっている。
 2012年の全国学力調査から初めて導入された小学校理科で、都道府県別の平均点が46位だった大阪府教委。府教育センターの指導主事らが府内の小学校に出向き、若手教員らに理科を教える講座を12年から始めた。
 「電気」の項目で乾電池を手に持つよう促すと、「感電しないか」と不安がる教員もいた。講師の一人は「乾電池を持ったこともないのか」とあきれたという。
 福島県教委も今年3月、県内の公立小中学校に理科の指導DVDを配った。「マッチのすりかた」「星座早見盤の見方」「電流、電圧計の使い方」など、11の基礎知識が1時間で見られる。
 県教委義務教育課の担当者は「マッチも使えない若い先生がここ数年、顕著に増えた。こういう先生が増えると実験離れが進む」と懸念を示す。
 文部科学省の外郭団体・科学技術振興機構が10年、国公立51大学で小学校教員を志望する文系学生217人にアンケートしたところ、理科の指導項目で「自信がない」「やや自信がない」と答えた割合は、マッチ・アルコールランプのつけ方11%▽虫眼鏡の使い方27%▽動植物の野外観察46%▽チョウの飼育67%だった。
 機構は「学生が理科の実験や観測を実習する機材がそもそもない大学がある」とし、機材をそろえるよう大学側に要請している。
■跳び箱・キャッチボール講座も
 都教委は、理科以外にも体育や子どもとの接し方で悩む新人教員が多いとして、対策を進めている。
 体育は、理科と同じ内定者講座で指導してきたが、怖くて跳び箱を跳べない学生や、キャッチボールが苦手な学生がおり、日本体育大の教授が教える。
 今年12月の講座からは、いじめを見抜くなどの「学級運営」も盛り込む。元校長が講師となり、「机の落書きに気を配ろう」「子ども同士の会話で兆候に気づこう」と伝える。モンスターペアレント対策も入れるという。
 都教委は「学校に入ってから実践力をつけたのでは間に合わない」と話す。
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■今どきの先生、こんな人も
○虫が怖くてつかめない
○マッチのすり方を知らない
○ガスバーナーが使えない
○電池の+-のつなげ方がわからない
○草木の名前を知らない
○星空を観察したことがない
(東京都教委、大阪府教委調べ)