第五章|倉庫という自由
順平の家の倉庫は、ただの物置だった。
けれど、ここには正解がなかった。
間違えてもいい。
止まってもいい。
そこにアリスが加わった。
声が入った瞬間、曲は形を持った。
三人になった。
音は、思い出ではなく、今になった。
第六章|曲に名前がつく
倉庫での練習は、回数を重ねるごとに静かな熱を帯びていった。
曲はもう途中で止まらなかったが、拓郎は最後に必ず迷った。
その夜、洋子は一人で大学ノートを開いていた。
永吉が眠ったあと、小さな音でギターを鳴らしていた頃のことを思い出す。夢の話はしなかった。ただ、音だけが部屋に残った。
生活を選んだことを、後悔したことはない。
それでも、あの音が消えてしまうのは惜しいと思っていた。
ノートを閉じる前、洋子は一度だけ余白をなぞった。
――誰かが続きを鳴らしてくれたら。
それだけで、十分だった。
翌日、拓郎はノートの最後のページを開いた。
何も書かれていないと思っていた余白に、光の加減で薄い文字が浮かび上がる。
〈もし
この歌を弾く人がいたら
続きを、好きに鳴らしてほしい〉
「……『つづき』でいい」
そう言って、拓郎は自分の字で書き足した。
父の字と並んでも、違和感はなかった。
