「ここだよ。」
ユウシがツタまみれの建物を指す。
「あぁ。」
父はここを昔から知っているようで、返事をしながら看板を探す。
「看板ならここだよ。」
入口ドアのガラス窓に小さなプレートがある。
「バーチャル、スタディ、スタジオ。
ホントだ。
夜逃げ前提で全然カネをかけていない。」
頭を掻きながらプレートを見る父は、入るまでもなく帰ろうとした。
「ピンポン押すよ?」
ツタの隙間からボタンが見える。
人差し指を用意するユウシ。
「もう、だいたいわかったし、帰るか?」
父は車のカギを取り出す。
「えーーー?
今日はお父さんが無料体験すればいいじゃん。
建物がボロだけど勉強には関係ないんだよ。」
ユウシは返事を待たずにボタンを押した。
≪ビィーー≫
ブザーの音がかすかに聞こえる。
「はい、いらっしゃいませ。」
入口が開いて、あの店員が現れた。
「こんにちは、今日はお父さんが無料体験したいそうです。」
ユウシ
「はい、いらっしゃいませ。
お父様、どうぞこちらへ。
靴はそのままでけっこうです。」
店員
「あ。いや、ちょっと説明を聞きにきただけで、」
父は玄関で立ち止まる。
「そうですか、では簡単に説明します。
こちらがお客さまが装着していただくブイアールヘルメットでございます。
バーチャル空間で英会話を勉強するシステムでして、教えるのは私ではなく、バーチャル空間の先生、
時には市民、警察官などと
使える英語、生きた英会話を実践するスクールとなってます。
最新AIで、相手はお客さまの言葉を聞き取り返答しますので、今までのような決められた会話を繰り返す勉強とは違い、さまざまなシチュエーションで、
さまざまなアクシデントが襲うこともあります。
ヒントはありますが、自力で答えを探すアドベンチャー授業ですので、この経験が必ずや記憶に残るでしょう。」
店員
「ぐっ、 すげぇ。」
ゲーム好きな父は断る理由が思い付かず息子の顔をながめる。
「帰る?」
ユウシ
「うーーん。
帰ら れない。」
父はヘルメットを見つめて答えた。
「は?」
ユウシ