ただの煙が、まるで生き物のようだ。
今、夢中に走ってきた男が、放置されたトラックのミラーに激突して転んでしまった。
それを白煙は音も無く這い寄り、男の体に覆い被さる。
男の顔を煙が撫でた。
「ぎひゃあ」
男は仰向けのままのけぞった。
その瞬間、この違和感が何かを悟った。
火事の煙なんかじゃない!!
男は、喉をかきむしりながら立ち上がると、千鳥足でバタバタと歩きだした。
俺はショウウィンドゥの裏側に移動して彼の様子を見ていたが、身体中が硬直した。
彼の見開いた目が、俺を見ていたからだ。
「たあすけ…」
彼は叫んだ。
明らかに俺に助けを求めている。
俺は、ハイビスカスの葉の裏に隠れてしまった。
明らかに俺に助けを求めている。
俺は、ハイビスカスの葉の裏に隠れてしまった。