江戸は、盗人も多かったが、乞食も多かったようです。

乞食には２種類あり、「かぶり乞食」と「乞胸乞食」とがありました。

薦被り

「かぶり」とは、酒のこもなどを被っている乞食で、寺社の門前や

門付けしたりして、生計を立てていた。

一方、「乞胸」の方は、芸？を披露して金を貰うのである。

例えば、歳末に来る「節季侯」のように、雀に似た特異な格好をして

「サッサ、節季侯（せっきぞろ）、毎年毎年、旦那のお蔵へ金銀財宝

飛び込め飛び込め」と景気の好い歌を歌いながら門付けし、

あまりに煩いので金をやって追い払うのである。

あと、手品、軽業、お経を唱える、一人相撲なども演じて、

金を貰うのである。

　　銘柄は銘酒「男山」です。

乞食と並んで多いとされた「盗み」。

これに対しては、幕府は厳しい刑罰を与えました。

以前紹介しましたが、１０両以上盗んだ場合は死罪です。

御是の金を盗んで逃げた場合は「取り逃げ欠落」といわれました。

欠落は一人でしても、駈け落ちなのです。

二人手に手を取ってだけではありません。

店は、暖簾に瑕を付くので店は事件を揉消しにかかります。

一方、この噂を聞くと出入でない岡っ引きなどは、押し寄せてきます。

金額が大きければ、或いは大店であればあるほど、美味しいからです。

　　白木屋

では、再三登場してますが、再び日本橋・白木屋の事例を。

白木屋文書にある不正についての記録です。

天保１０年（１８３９）から２０年間に起きた事例です。

件数は１２０件余。１年に６件当たり起きた計算になる。

その中から、先ず、子供組の１件。

入社して１，２年目の１２歳くらいの少年の事例です。

彼は入社して台所衆に配置されていました。

或る日、手代の供で商品を背中に担いでお供しました。

（台所衆の仕事の中には、その仕事も含まれている）

そして、長州屋敷、板倉屋敷を訪問して、日比谷門まで戻った所で

手代から、これから一人で備前屋敷に行くので、店に帰りなさいと

云われそこで別れました。

　　日比谷門外　長州藩毛利家上屋敷

此処から事件が起こります。

彼は、そこで「俄かに心替わり致し、欠落（かけおち）を決意したのです。

理由は後の云う事では、体がすっかり治っていなかったので、ご奉公が

辛かったと述べている。

「欠落」とは、男女が行う「駈落」ではないのです。

文字通り、欠けて落ちる」ということで、一人でも何人でも、或いは借金など

から逃げる事で、居るべき場所から欠けることを意味する。

そして少年は、高輪まで行きました。この時、荷の反物５５反を

背負って日比谷門から高輪までの６キロくらい有る道を

良く歩いたものだと思います。

そして、高輪の駕籠屋で一晩泊めて欲しいと頼むが、断られ、

そんな事はしないで一旦店に帰りなさい」と諭されます。

高輪は品川に近いですから、こういうケースは珍しくなかったのでしょう。

そこで少年はその晩は、一旦、店の近くまで戻ったものを、

結局店に入れなかったのでしょう。

一晩、夜を明かし、虎の門近くに行って、これからどうしようかと座っていた

所を、見回りの火盗改めに捕まり縛られてしまったのです。

　虎ノ門外　内藤家屋敷

白木屋は当然直ぐ探し始めていました。

然しながら見つからずに困っていた時、連絡を受けて駆けつけました。

こういう場合の白木屋の対応は、表沙汰にしない。というのが方針です。

そうでないと、１０両以上の盗みは死罪です。

それは店の暖簾を穢す、世間に対して恥を曝したくない。という事です。

従って、穏便な処置を願っての方法を模索します。

結局、何度も差紙（呼出状）を受けて、何度も役所に行きお願いをして

釈放してもらいました。

当然ながら、無料ではなかったでしょう。

火盗の場合は、任命された旗本の拝領屋敷が、火盗の役所となる。

屋敷内に、白洲・牢などの施設を設置するのです。

裕福な旗本が任命されたようです。

役高は１５００石ですから、町奉行の半分で、人員、与力・同心の数も

丁度半分でした。

色々と大変な物入りとなり、与えられた予算では足りずに、

鬼平の様に商品相場を行い、金を捻出したりするのです。

そうして行為をさして山師と呼ばれた。

これが奉行所であったら、もっとスムーズに処理できたと思われます。

というのは、こういう事の為に、大名や大店は日頃から御用頼みと呼ばれる

出入の与力が居ます。

盆暮れや或いはそれ以外にも付け届けをしていますから、

便宜を図って貰えます。

１回金１分くらいではなかったでしょうか。２，３万円。

これが複数のかなりの所から来るのですから、年収３千両というのも

簡単な話です。

当然ながら、このいう時の為に金が掛かってるのですから、

話は簡単になります。

　火盗改役

火盗でしたから大変であったかもしれない。

普段から付き合いが無いからです。

奉行所と違って、かなり荒っぽく、何処へでも踏み込むし、身分を問わず、

旗本から僧侶まで片っ端から捕まえて連行し、拷問もいとわず加え、

それから該当部署に引き渡すが、何しろ手荒いので、

火盗の屋敷へ連行されるのを怖れ、そして、すぐ斬るので犯罪者から

恐れられた。

鬼平は、この時代の前ですが、鬼平の後任の旗本が仕事の

引き継ぎをしたところ全く引継ぎの書類など無かったそうです。

要するに、怪しいのは片っ端から処分していたのでしょう。

ここで結果を出しますと、昇進の道が開きますので、そうなったのでしょう。

ですから、この後任の旗本(森山）は是ではいかんというので、

全てを書類に残し後任に引き継いだそうです。

結局、維新の時に引き継がれたのは、「女の攻め方心得」というのが

１冊であったようです。あとは焼却されていた。

後任の旗本の鬼平に関しての評と云うと「山師である」ということでした。

結局、こういう事があって鬼平は、希望である町奉行に

なれなかったのでしょうね。

かなり本人の強い希望であったようです。

ただ、子供が親以上の出世をしたので報われました。

ただ、鬼平も功績があります。

石川島に寄場を作り、罪人に仕事を教えて、出所後に備えたのです。

懲罰刑から教育刑への画期的な転換でした。

　　石川島平面図

それは兎も角、店に戻された少年は、損害を調べられます。

結局持ち逃げした反物は無事に戻ったので損害無し。

それを報告し、無事１件落着した。

しかし、其れから２か月後、少年は「病気為登」（病気の為）という理由で

家に帰された。

退職理由に、この「病気為登」病気登りという理由は多い。

勿論、本当の病気ではありません。

　敲き刑

前以て金を渡していれば、軽く敲いてくれます。

魚心有れば水心。

幕府の法律である「御定書」の規定によれば、錠前を壊したり、

戸をこじ開けて入るだけでも、何も取らなくても死罪である。

では、開いていたらどうかというと。

これは死罪ではないが、重敲きのうえ入墨である。

何でも盗みは死罪かと思えば、そうでもなくて、店先の金を盗んだとか

物を取った場合は、軽い敲き刑なのである。

しかし、これが重なると２回で入墨刑、３回目は死罪なのです

他の犯罪では、こうした方法は無いが、窃盗に対しては厳しい

のです。

泥棒といえば「鼠小僧次郎吉」が義賊として有名で、

実際はそうではないですが。

今もって、回向院にある墓の石を削って持って帰る人が絶えないそうです。

その為、削る為の石を墓の前に置いてあるそうです。

次郎吉は警戒の緩やかな大名屋敷を専門に狙い、一旦中に入ると、

特に奥は女性だけなので安心だったそうです。

１３９の屋敷に忍び込み総額１万３千両もの金を盗んだという。

その中には、１回で千両も取られた本多豊後守、溝口伯耆守などがあり

被害届け出があるが、中には届が出ていない所もある。

　　鶴ヶ城　戊辰戦争直後

会津藩松平家は、本人の言う事では５回忍び込み、その度に、５両、

１０両、５０両と盗んだというが、届は出てない。

恐らくは、額の低いというのは、同家の経済状態が悪い事を物語り、

それが表面に出るのが嫌であったろうと思われる。

「大名は小判の中でよく寝入り」といのもあり、裕福な大名もいたが

大半は厳しい財政状態であった。

江戸の小咄に金も借りる事も出来ない家賃も払えない浪人に対して

同情した大家が声を掛け「あまりくよくよとお考えになってはいけません。

世の中は金が敵と申しまして、金など碌なものではありませんから」

と慰めると、その浪人曰く「さてさて、よくよく武運に見放されたそれがし、

ついぞ敵に出会ったことが無い」

　３千石の旗本屋敷

盗みに入られた旗本もいます。

どれくらいのお金を屋敷に持っていたかという意味で紹介します。

１３００石取りで、御使番（戦場では命令の伝達、昔でいう母衣武者で

勇敢であることが条件でした。平時は火事現場の監督者）

下女が盗賊の手引きをしたものでした。

損害は６８両と銭１貫９３２文入りの銭函を盗まれました。

但し、直ぐ盗賊改めに逮捕され、金も取り戻せました。

ただ、６８両と云っても、万延小判ですので、価値は低く化政時代の

３分１くらいであったと云われる。

１３００石取りの場合、それくらいは持っていたのでしょう。

しかし、裕福な武士もいたのです。

同じ頃、幕府の書院番頭（４千石高）を勤めていた佐藤という３２００石の

旗本は故郷の美濃国の菩提寺に御先祖の墓参に出かけます。

幕府はこうした先祖供養に対しては旅行の許可を容易に出しました。

此の佐藤家は家系が古く、義経の家来のあの有名な佐藤兄弟の一人である

佐藤継信の子孫である。

今もって、東北にはその影響で佐藤性が多いという。

名家好きの家康にとって好みの家ですね。

織田信長に仕え、その後秀吉、家康に仕え上杉攻めや、関ヶ原に従軍し、

故郷である美濃国に知行を与えられている。

江戸の屋敷は、小川町に１９００坪の屋敷（３２００石の旗本にしては

小さいが）を構え幕末まで続いている。

旗本夫人の井関家と同じ町内です。

清水門の近くです。

通勤に便利です。

　　清水門の坂　城内はかなり坂が多いです。

こうした地方の小豪族は富裕であるとされる。

戦国の頃は出陣する時は、数日間の費用と万一、

敗戦時には落ち延びる為に相当の黄金を腹に巻いて出る。

そして勝ち戦の時は、敗者の何処に財宝があるか判っており、

それを戦利品として頂くのである。

それが当時の常識であったという。

家康の股鑛の家臣である酒井忠次が「乱世は思いのほかの得物ありて」

というのが是に当る。

伝えられる話では、元禄７年、当主になった人は水戸家の家臣であったが、

この家に養子に入る時、７万両の金があり、それは、当主の遣い料とされた。

更に屋敷が多数あり、知行の収納は一大では使い切れませんでした。

とある。

それは兎も角、幕府の重鎮である書院番頭（将軍の親衛隊）は

幕府の許可を得て一か月の休暇を得て旅立ちをします。

お供は家臣１６人、足軽７人、中間１２人、

乗物、乗馬、鉄砲２丁。（３丁まで認められています）

費用は４５０両。

お供の衣服を新調し、更に支度金を渡し、道中経費は主人持ち。

番頭は１０万石の大名の格式であるため、このような形式になった。

幕府は権威というのを重く見て、代官くらいの禄高１００俵未満の旗本でも

行列は、小大名の格式くらいを求めました。

従って、番頭ですから、私的と雖も簡単な行列には出来ません。

佐藤家は３２００石ですから、番頭の足高を加えて４千石です。

表向きは１４００石ですから１４００両です。

従って費用の４５０両は痛手であろうと思われるが、佐藤家の内情が

是をもって裕福であることは窺われる。

　　碓氷関所

問題が起こりました。

鉄砲です。といっても、鉄砲自体は家の格式で認められている物で

問題ではありません。

問題は、碓氷関所を通行した時に役人に注意されました。

行きは出鉄砲なので好いが。帰りが「入鉄砲」になる事です。

通るには老中発行の裏書証文が必要となるのです。

　福島関所

そして次の福島関所で止められました。

やむなく、鉄砲を預けて先に行きますが、至急、江戸へ便を立てて、

老中発行の裏書証文を取り寄せて解決しました。

このように、如何に幕府の重鎮である書院番頭でさえも、厳しく監視されて

少しでも規則に合わないものは、通行を許さなかったのです。

これが、末期になると話は変わり、金で解決できるようになる。

しかも、庶民がそれを金額さえも知っていたのです。

江戸名物－２－３