そしてその日、二人はいつもよりかなり遅くまで話しあっていた。

少年が引っ越してしまう理由は、何年か前から病気になっていた父親がついに他界してしまったため、母親の実家に行くことになってしまったからだ。
やはり女手一つで子供を育てるのは大変なのだろう。父が他界したことを知った祖母が直ぐに連絡をしてきて母に帰って来るように言ったらしい。
母も最初は遠慮したらしが、稼ぎも少なく、結局祖母に甘える形になったようだ。


そんな話しから、今までの思い出話し。そんな話しをずっとして、日が完全に沈むころ、二人は自分の家へと帰っていった。

少女は初めて見るであろう、そんな景色に疲れなど忘れてしまったようだった。

笑顔ではしゃいでいた。



「ありがとう!この街にこんな所があるなんて知らなかった」


少年も少女のそんな姿を見て、笑顔になったが、その顔は直ぐに違う表情に変わる。
今この少年がしている表情。


それは、間違いなくこの歳の子供には似合わなく、ましては、目の前で楽しそうにしている友達のそばではもっとも似合わない顔であろう。


「あのね、聞いてほしい話しがあるんだ」


少年の自分との明らかに違う温度差に幼いながらも気付いたのだろう。
少女は不思議そうな顔をしながら少年の話しに耳を傾ける。


「実は僕ね、引っ越すことになったんだ」


少年は少女の顔をまともに見れないのか、したを向いたまま語りだした。
少年の突然の告白に少女は動揺しながら、落ち着きのない声で少年に語りかける。



「どこに行っちゃうの?もし私でも行ける距離なら、毎日会いに行くよ!ううん。そうじゃなくても行く!」

少女の健気な想い。少年にはどう届いたのだろう。

「無理だよ…。電車を使っても凄く時間が掛かるんだ。毎日なんてこれるわけないよ。」



少年もきっと、出来ることなら毎日でも会いたいのだろう。
しかしこの二人はまだまだ子供である。この年でそんな遠い所に行くなど無理であった。


「そう…なんだ」


少女は先程までの笑顔から一転、泣き顔になっていた。


「いつ、行くの?」


今にも涙が出そうな顔だった。少女は少年と同じように下を向いて必死に涙を堪えていた。


「一週間後」


少年は聞かれた答えだけを口にしていた。他に言葉が出ないのであろう。

唇を一文字に結び、少年の返事を待っていた。


「そっか…。じゃあ見送りに行くね」


今の少女に出来る精一杯の返事であった。その言葉に少年は「うん」とだけ返してようやく顔を上げた。
少年が顔を上げたと同時に少女も顔を上げる。
そしてある提案を少年にした。


「最後は、二人とも笑顔でいよう。思い出が悲しくなるなんて嫌だよ」


少年はその提案に頷いた。言葉に出さずとも、自分と同じ気持ちでいてくれるとわかっているのであろう。


プロローグ(みたいなもの)















それは、まだ肌寒さの残る春のこと。
二人の子供がこの街の一番高い所を目指していた。

片方の子供、歳のころは八歳程であろうか。その子はもう片方の子とは違い、少しばかり体力がないように見える。女の子であった。

その少女は、もう片方の子供、少年に向かって息を切らせながら口を開いた。


「ねぇ、まだ着かないの?」


少女はついに方を上下させながら歩いていた。そのはずである。その場所に行くには獣道とはいかないが、それを思わせるような長い急坂が延びていた。

そんな少女を見つめながら少年は両手を胸の前にもっていき、ガッツポーズを作ってみせた。
そして少女を励ますように


「後少しだから」


と言うが、少女は坂の上を見つめ、ため息を一つこぼす。
少女の視線の先は、目的地と呼べる物は写っていなかった。

そんなことは、恐らく少年もわかっているであろう。しかし、少年は足を止めることもなく急坂を登り続けていた。

それも頻繁に後ろを振り返りながら、少女がついて来ているかを確認しながらである。
少女が遅れていると、来た道を戻り、少女の手を引きながら歩いた。




そして、急坂を登り続けて、二十分程であろうか。坂の途中、木が生い茂った小さな丘のような場所に到着した。


「もしかして、ここ?」


少女がその丘を指指して少年に訪ねる。
少年も流石に疲れたのか、少女と同じように苦しそうに肩で息をしながら答えた。


「うん、この丘の一番上だよ」


その少年の言葉に、少女は少し嫌そうにしたが、ここまで来たのだから、行ってみるのも悪くないと思い、少年の後を追い掛けた。


少年が言う、目的地には思ったよりも速く着いたが、そのころには既に日が沈みかけていた。

その時間帯になると、少年達ほどの子供は今まで遊んでいた友達と別れ、各々の家へと帰っていく。

この少年達も、もちろん普段は例外ではなく、その子供達と同じように、この時間になると帰って行くのだが、今日は別であった。

この場所に着いて、直ぐに帰るのも躊躇われるのもあるが、それ以上の理由があったのだ。



「綺麗…」



そう少女が目を輝かせながら口にしていた。
この高い丘から街を見下ろし、そして沈んでいく西日。

そこにはまるで、空と街全体を彩るかのような夕焼けが広がっていた。