・前回までの粗筋


マリアの実母アストリトが、全ての職を失った翌年に出会った放浪の絵師レオポルド・ボーモン


苛烈で自由奔放なアストリトとマイペースを地でいくレオポルド、水と油のように相容れない仲に見える2人ですが、アストリトは今までにない安らぎを感じていました


帰化を促すアストリドに、はっきりとNOを突き付けたレオポルド…オスキツ国行きを打診するレオポルドに、答えを出さなかったアストリト


2人の運命や如何に




・本編


世間は決勝閉会式やポイント競争大詰めで慌ただしい中、2人の間だけはゆっくりと、然し残された時間は確実に削られていきました


暦の上では冬を迎えた休日


「レオポルド・ボーモンさんが再び旅に出ました」


アストリトは、オスキツ国へ付いて否か応えないうちに、その日が来てしまいました



失恋2回の失恋女王としてゴシップ掲示板に書き立てられ、再び集まる周囲からの白い目線を無視し、訓練用の剣を手に一般用のダンジョンに籠る日々に戻りました…心境の変化が訪れたのは1年後でした



アストリトにとってその銀色の刃は、単なる子ども用武器ではありませんでした



先の戦闘で、守護龍バグウェルとドルム・ニヴ6兄弟と協力しながら、人間の独立を勝ち取ったエルネア王国民達と旧カルネ帝国民達


戦闘の犠牲となった先達の存在は語られても、彼らの名前や生き様が語られる事はありません



勇ましく散った先達の遺児は…両親の顔を薄ぼんやりとした記憶の中で思い出す事は出来ても、声を思い出す事は出来ませんでした


亡き両親の存在を忘れたくない一心で、贈られた特別な訓練用の剣…山岳工芸品でも再現不可能な特別な刃を、彼女は今の今まで持ち続けてきました


ナトルの授業終わりのパンだけで食い繋いだ日々

住居も畑も与えられず、ダンジョンの副産物を金に換えてマリーの店の惣菜で食い繋いだ日々


当時の先輩達から馬鹿にされ、今や元夫となった当時の上官から「ふざけるな」と言われても手放す事の無かった銀の刃


装備するだけならまだしも、気付かぬ内に心にも刃を飼い続け、最後は築いた家庭と守るべき家族の心を壊してしまいました




嘗て逢瀬を重ね歪な愛を育んだアパート


最愛の娘を失った牧場

その遺灰壺が先日まで納められていた地下墓地


嘗て身投げしたカルネ皇帝の橋


使い方を誤り「亡き両親との美しい思い出」から「凋落の元凶」に変えてしまった銀色の刃…それを黒い鯖がこびり付き鈍く光る銀製の鞘に収め…


次の瞬間アストリトは、その剣をエルネア川に投げ捨てました…剣は川面に浮かび光に反射した刹那、水底へ沈んでいきました




「……もう、切るものは何も無いわ」




今は亡き両親や愛娘は自分の心の中で生きている

生き別れた娘もきっと遠くで幸せに生きているはず



「生きろ!生きるんだ!」




あの日、意識が朦朧とする中で聞こえた元夫の声

気付けば、エルネア波止場まで来ていました。



そして………




とある春の早朝


レオポルドは、その日もエルネア波止場で日の出を描いていました…


キャンバス一杯に広がる鮮やかな波止場の風景画

時間帯や季節毎に色が異なる絵の数々、ちょうど記念すべき100枚目の絵を描きあげた所でした


「アストリト・クレイヴンさんがやってきました」


放送を聞いたレオポルドは期待に胸を膨らませながら入港したばかりの船に駆け寄ります



船から降りてきた女性を見た瞬間、期待は確信に変わりました

旅の疲れか少しやつれて見える彼女を彼は温かい抱擁で迎え入れました



仲良しを超えた2人

街角広場で語り、夕方からはウィアラに怒られるまで語り明かしました

翌朝

レオポルドは酒場での朝食を終えたアストリトに声を掛けました


「あのさ…良かったら2人で何処か行かない?」


「いいね、もちろん行くよ」


「じゃあ幸運の塔に行こう!」


アストリトは少し驚いていましたが、レオポルドの温かな手の感触は離し難く、導かれるがまま幸運の塔まで行きました


「あのさ……僕、アストリトさんの事が好きなんだ…良かったら付き合ってほしいんだけど」


「いいよ🎵あたしもレオポルドの事、好きだったんだ」


「ほんとに?やったー!嬉しい😆」


「これから宜しくね」


そして次の日には帰化していました

あっさり帰化できた事に驚きを隠せないアストリト

帰化する時に「アストリッド」に改名しました



「告白された次の日に帰化出来るんだね」


「そうだよ、アストリッドちゃんは王国民である僕の恋人で、奥さんになる人だから」


「改めて言われると少し照れるな」


少しずつ関係を深め、プロポーズを受けて無事再婚


レオポルド・ボーモン夫妻は、王国民から「変わり者で面白い夫婦」として受け入れられました



そして、シャルロット・ボードワンとアルベールの3人の子どもに恵まれ、幸せに暮らしましたとさ…



【完】




次回は、支配から逃げる大勝負に出たヴァルターの後日談として、スピンオフ作品②『北へと向かう名も無き盾』をお送りします