夜半。
ほぼ正確な時刻を言うと、寝付く直前、午前2時過ぎ。
ポチポチという雨垂れの響きが、微かなカサカサへ変化。
床から這い出て天窓を確認するには寒過ぎて勇気がない。なのでそのまま布団に包まって多分そうだろうなと予想した。
朝方。
正確な時間は分からない。多分7時半頃。
トイレに行きたくなって、戻ってきて寝直したいので電気を付けず闇の中を手探りで階段を降り、窓から目に入った光景で、ああやはりそうだったと納得した。
起きることにした。
暗く照らす電灯の台所に入ると、隣のアトリエで妻はもう起きている様子がうかがえた。薪ストーブの状態を確認するため覗くと、カナッペに座って何かに没頭していた。
「雪が降って積もったみたいだね。」と声をかけたが、返答はなかった。ラジオの音でぼくの声がかき消されたのかもしれない。
台所に戻ってコーヒーを入れる。
コーヒーの香りに釣られたのか妻が台所に入ってきて「コーヒー淹れたんだ。私にも頂戴。」と言うので、「どうぞ。」とコーヒーポットを滑らした。
「雪が降って、積もったみたいだよ。」と同じ文句を言って、台所の小窓に付いている鎧戸を開けて見せた。
「あー、ホントだ。」妻の顔が華やかになる。
何故だろう。
全ての人間とは言わないけど、私たちは雪を見ると晴れ晴れしい気持ちになる。一面が白だからだろうか?反射で明るくなるからだろうか?
ただ寒いだけの薄暗い日常が雪で一変する。雪はぼくの心を躍らせる。
以前、まだ学生時代、そういう感情を持つのが当たり前だろうと主張したら、あまり親しくない知人に大層な剣幕で叱られたことがあった。
「雪のせいで交通麻痺がおこる。雪かきをしなければならない。滑って転んでケガ人が続出する。そのために各部署で増員を強いられる。いいことなんてなにひとつもない。君のその感情は自分勝手だ。」と剣もほろろにまくしたてられた。
めんどくさい奴なのでその後交流は絶えた。
日が差してきて軒から雫が垂れ始めた。気温も3℃と上昇中。晴天。
隣家の庭で犬が吠えて走り回っている様子が伺える。走り回っている様子から歓喜している事もわかる。
もし40年前の知人に会えたら、同じ発言を隣の犬に言ってくれと、今なら言えるだろう。
我が家の猫がニャーニャー外に出せとうるさいので台所のキッチンガーデンに面したドアを開けると、顔を出した途端、雪を確認すると躊躇している。で、結局出るのを諦めて再び薪ストーブの前に戻って寝転がった。
(長くなってしまったので) つづく