(私流カタカナ表記、正確には demoiselle と書く。正しい発音は専門の方にご確認ください。)

 

 

 

「晴れたので散歩に出かけよう。」

祭日の朝なのに騒々しく、まだ眠そうな皆を駆り出した。

 

小川の淵でメタリックな青緑色が朝陽に反射してヒラヒラと舞うように飛んでいるのに目を奪われた。まだその動きに目が慣れていなくて、いまひとつ形状が把握し切れなかったからきれいな蝶だなと思った。よくよく観察してみるとトンボの様であった。

スマートフォンで被写体を追いかけ写し込もうと躍起になっていると、同伴していたジャン君が

 

「demoiselle」だねと言う。

 

ぼくは、「えっ、トンボじゃないのこれ!」と聞き返してしまった。

「トンボはトンボだけど、これはdemoiselleでしょ。」と念を押されてしまった。

 

ああそうだった、なるほどそうだった、と記憶が沸々蘇ってきた。

 

「こんにちは、煙草くださーい。」とタバコ屋の前で声をかけると、奥で座布団に座っていたおばあさんが、よっこらしょと立ち上がり「はいよ。」と返事をする。近づいてきて「なんにしましょかね。」と注文を受ける。通い慣れた所だと、「なんだよー、ボケちゃったのか、セブンスターだよ。」と言うと「ああそうだったね。」といつものを出してくれる。

次の世代のぼくの母親くらいの年代のおばさんだと「止めときなよー、若いうちから吸ってると、立たなくなるよー。」と冷やかされる。

たまたま受付がその娘の同級生だったりすると、母親とのやりとりを意識してしまっているから、恋愛感情はないものの、はにかみながらも、互いの発するフェロモンを嗅ぎ合ったようなないような...、

とまあその辺の事情を書くと話がかなり反れてしまうので止めますが、ぼくはそう言うやりとりの習慣で育ってきた。

 

40年前、フランスに移住してきて同じ流れで、

「こんにちはー、煙草ください。」と言うと必ず、

「はあ?...で、何!」と言う反応をされた。老若男女みな同じ対応だった。

いやー、パリって怖い所だなーと思う半面、なんだチクショーお高く止まりやがってと言う感情を抱いていたものだった。

しかし、よく考えてみると当たり前で、タバコ屋に来て煙草くださいと言われても、なんか店の人からすると「まず、銘柄を言えよ!」とイライラするらしい。

 

今回もその体で、ぼくが「わートンボだ。トンボ。」と子供みたくはしゃいでいて、そりゃトンボはトンボお互いに認識済みで、ジャン君はそれを更に詳細つけてくれた訳ですね。

 

で、このトンボは「ドゥムォアゼル」と呼ばれるそうだ。止まっているとまあ昆虫(?)なので奇妙だけど、フワフワと舞っている姿はとても可憐だ。

 

 

<調べてみて(個人的な独断と偏見を含む)ちょっとした補足>

La demoiselleは未婚女性を示す名詞であるけど、本来 Zygoptères (イトトンボ)と言う正式な名前があるこのトンボに、あえて「ドゥムォアゼル」を当てた人物は、よほど未婚女性に幻想を抱いたエロオヤジなんじゃないかなと推測できる。

他、以下の動物にも同様に「ドゥムォアゼル」は当てられるそうである。

La girelle(魚類)、や La grue de Numidie(鳥類:つる)は似たような発想が想像できるが、La cépole(魚類:アカタチ)においては未婚女性に相当苦い思いをさせられた経験がある人物だという可能性がある。

 

<スマートフォンで写してみて、ちょっとした補足>

探すのに苦労したけど、9枚すべてに写り込んでいた。暇な時にでも探して見てください。