ポタポタと雨漏れの音でちょっと目が覚めた。

雨粒の天窓のガラス板を打つ音が聞こえないのが変だなと感じた。

鳥の囀りも聞こえない、鶏の雄叫びも聞こえない、静寂の中でバケツに落ちる滴の音は際立っていた。

枕元に置かれたスマホで時刻を確かめると、午前6時58分。起きるにはまだ早すぎる、けどトイレに行きたいし、なので観念して寝床を出た。

 

階段の踊り場に出て外を眺めると雪が降っていた。このことは天気予報でも予想していた。4月1日なのに、フランス気象予報士は嘘をつかなかった。

 

ルーブル美術館の中庭に硝子のピラミッドが建てられたのはいつのことだろう? 

もう35年くらいは経つんじゃないだろうか。

その時ぼくは歩いて行けるほどの距離に住んでいたにも関わらず、いつか行くだろうとのんきに構えていた。

あくる年の4月1日、ラジオかテレビのニュースで、

 

「数カ月前に建てられた、ルーブルのピラミッド。建築家がセーヌ川脇の地盤の悪さを考慮していなかったため、崩壊する危険が発見され、数日後に取り壊し作業が始まる…」

 

というような内容が流れ、賛否両論あったけど一度は見てみなくてはと、慌て駆け込んだことがあった。ひと通り観覧を済ませ首を傾げながら戻ったぼくを妻は眺めニヤニヤしているので、ようやくこれがエイプリルフールの仕業であることに気付いた。

 

4月1日一日だけなら気をつけようもあるけど、今は節操もなくもっともらしくフェイクニュースが流出しているそうで、ぼくのような人間は何を信じて良いのか迷うから、最近は警戒心が強くなってきている。