ルイべは北海道の特産品で冷凍保存した鮭の事だ。実を言うとまだ食べたことがないけど、間違えていないと思う。
今でこそ鮭を刺身で食うことが当たり前になっているけど、ぼくの子供の頃はそういう習慣はなかった。
一般に鮭は切り身で売られ、「塩じゃけ」稀に「甘鮭」の札を見かけた。年末になると新巻鮭が出回り魚屋の店頭に吊るされていた記憶がある。
鮭とは、そういうものだった。
ぼくの父は博識で、ぼくの質問になんでも答えてくれた。けど、父を博識だと思っていたのはぼくだけで、今思うと結構口から出まかせが多かったかもしれない。
その父からの受け売りなんだけど、
川魚を生で食わないのは、生水には雑菌がうじゃうじゃいて、鮭なんかは海から川を上ってくる間にバイキンがくっついてしまうから、それで塩漬けにして火を通して食うんだ。ところが、北海道は寒いところで干していた新巻鮭が凍って、凍らせればバイキンも死んじまうから生で食う、それがルイべと言うもんだ。
ぼくのルイべの知識はこの程度のものである。
クリスマスでの料理の一品にスモークサーモンを作ろうと皮付きの鮭の塊を1kgくらい買った。
塩をまぶして一昼夜ねかし、燻そうと思ったのに、なんか急にめんどうになって一昼夜どころか3昼夜はたって、クリスマスは過ぎ去った。じゃあ元日になんかに使おうと冷凍庫に入れておいたのを、今度はすっかり忘れていて元日も遠に過ぎ、一昨日思い出した。
塩をまぶしているせいか、冷凍庫から出したその切り身はバリバリには凍ってなく、心なしか弾力すら感じた。ぐにゃっとした感触がチョッと食欲を薄れさせた。
それでも1kgもある鮭の塊を捨ててしまうのは惜しく、考えた末クッキングペーパーで包み凍ったまま燻してみることにした。
燻すと言っても薪ストーブの炎はゴーゴーと燃えていて、オーブンの中は高温に熱せられている。煙の充満している状態ではない。焼けたら焼けたで仕方がないと思い、構わず放り込んで5分くらいして取り出してみた。
尻尾に近い部分は身が薄いため火が通り過ぎてただの塩鮭のだけど、身の厚い胴の部分は軽く炙った感じで、そこを薄くスライスして適当にこしらえた寿司飯の上に富山の鱒寿司の様に並べ、更に蓮根のナマスとガリを重ね押し寿司にしてみた。
これは結構イケる。塩は十分効いていて醤油なしで食えるし、ガリや蓮根の酸味とも相性がいい。
「あっ、そうだ、写真を撮ってここで紹介しよう。」
そう思った時は後の祭りで、それはもう一切れしか残っていなかった。