書留とか小包とかが送られてきても、フランスの、ぼくがすむ地域の郵便配達人は配達通知書を20メートル先の道路に面した郵便受けに入れるだけで手元までは届けてくれない。その紙にはいつも「ベル及びインターホンが設置されていない」と追記されている。
 FEDEXとかUPSとか或いはAmazonが委託した運送会社なんかはちゃんと届けてくれるのに。

 森の静寂に包まれた平穏な生活が、ボロボロボロボロと低音の聞き慣れないバイクの騒音で搔き乱され、門にとりつけられたベルが慌ただしく鳴る。

 

 「何度電話してもつながらないし、メールを送っても全く返事がない。何かあったかもしれないと思って、跳んできた。」

 最近もらった初めて手にするスマートフォンはちょっと触れただけで、ブルブルっと震えて意図せず誰かに掛かってしまうので、怖くっていじれなくて、電源を切ってあった。そう言えばここ2~3日ネットと固定電話はBOXの不具合で通話・接続不能だった。

 

 旧友であった。

 

 小降りとはいえ雨のなか50kmを走り続けてきたのだろう、びしょ濡れであった。彼はぼくより歳は2~3才上の老人であるが、排気量1000cc以上の大型バイクをまだ運転する。こんな雨の日にスリップでもして、すっ転がって倒れた時バイク起こせるのかなあ、とぼくの方が心配である。

 ぼくは例え友人であっても、突然の訪問を好まない。しかし、心配してくれている友をねぎらう礼儀はわきまえているので、やむを得ず、仕方なしに、渋々と接待した。

 鶏の上部モモ肉、ジャガイモ、クルジェット、玉ねぎ、トマト、長ネギ、月桂樹の生葉、生ロマラン(ローズマリー)、料理用白ワインカップ1杯、粗塩を鍋に放り込んで約2時間弱火で煮込むだけの、いたってシンプルな煮込みである。pot au feuとは「火に掛けた甕」と直訳できると思うわけなので、これをポトフと呼んでいいかもしれない。

 なんだ、呼び鈴の鳴る音は家屋内でもちゃんと聴こえるんだから、今度郵便配達人にも作り置きしたポトフをおもてなしして郵便物を門まで届けてもらおうかとも考えている。