梅干しを一度作ったことがある。
初夏に帰宅した時に、通りがかった八百屋の軒先に並べられていた実の黄色くなった梅を放たれた香りに釣られ3 kg買ってしまった。
これで梅干を作りたいから作り方を教えてくれと母に頼むと
「3 キログラムばかしで作ったことはない。あらやだ、黄色くなってるじゃないの。」 と教えるのを渋っていたが、
「そんな事言わないで教えてくれよ」と頼むと教えてくれた。
片足を初老の域に突っ込んだ息子にも母性を持った母であった。
ほぼ自画自賛だけど絶品の梅干しができた。果肉の多い十分塩加減の効いた、ぼくの記憶にある本来の梅干しになった。
半分を母に残し、残りをフランスに持ち帰った。
翌年母は他界した。
その時の梅干しも、もうとうの昔になくなった。以来12年間日本に帰る口実をなくしたぼくは長いこと梅干しを口にしてない。その時の作り方をうる覚えで今メモしたものが下記の図である。
毎年初夏を迎えるこの時季、梅干しを作りたくなる。
だけど、梅の実が手に入らない。プラムは梅だけど青梅とは違う、生で食える。
黄みがかったMirabelle、あるいは青みがかったReine claudeも梅の一種だろうとは思うけど、これで梅干しができるとは考えられないので、半ば諦めかけていた。
今年も非常事態宣言が発せられ、外出制限を余儀なくされてパソコンの前に座ることが多く、調べ物をすることも多く、ネットで注文することも多く、そんな中ふと梅の木を買えないものかとネットで調べてみると、取り扱っている業者を見つけた。
ただ梅の木は 'Beni-Chidori' と 'Bicolor' の二種類しかなく、どちらかと言うと花を見るためのものであるようで、実をしっかりつけるかどうか不安になったため買うのを躊躇していたら、もうこんな時期になってしまって、今年も諦めざるを得ないかなと、半ば諦めかけていたところ、スーパーで小粒の杏子を見つけた。
果実はまだ固く、これは正にかつてぼくが見た梅の実と同じものであったのではなかろうか?
実際日本の梅の木をフランス語ではAbricotier japonais / Prunus mumeと言うらしく、アブリコは杏子である。固い杏は黄色い梅と瓜二つである。もしかしたらこれで出来るかもしれないと思いその杏子を1 kg だけ購入した。
成果はできるだけ追ってお伝えしたい。