挨拶
 
 雪国でない場所ではよくある光景で、めずらしく一日中雪が降り積もっても、翌日は気温が上がりもう溶け始める、庭の土はぬかるみびちゃびちゃして気持ちが悪く、折角雪で覆われ隠されていたものが、余計薄汚く現れ、子供が熱狂して作り上げた雪だるまは覇気がなく、だらしなくなっていたり、原形を留めていなかったりする。

 朝はまだ曇っていて、雨が降っているのか、雪の溶ける雫が小枝や雨樋から垂れてくる音なのか、中から窓越しに見るだけでは判断もつかなく、天気予報で調べると午後には晴れるという予想なので、散歩はもう少し見合わせようと11時くらいまで室内をブラブラしていた。

 市の公式サイトで古い地図を観覧できる。
 精密さには欠けるけど道程は理解できるので、今日の散歩は旧道を歩くことにした。
 
 日曜の旧道は思いのほか人の往来があった。
 すれ違う人、追い越す人、見も知らない者同士が挨拶を交わす。

 フランスで生活していると挨拶する習慣が身に付く。
 さすがに都会ですれ違う人々全てには挨拶は交わさないが、店の敷居をくぐる時は挨拶して入るし、挨拶して退出する。スーパーのレジでも挨拶をするし、バスに乗り込むときもする。通りすがりに不注意にもぶつかれば、互いに「失礼」と言い交わすし、意外と思われるかもしれないが、皆結構礼儀正しい。

 挨拶する習慣はフランスだけではないかもしれない。ヨーロッパに共通する礼儀かも知れない。
 旅行した、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、ベルギー、イギリス、スイス、イタリー、スペインもみな同様であった。

 スペインはセビリアを旅した時は、まだ20代で、安宿に泊まったものだから、若い女の子が下着も付けず薄着で、朝になると「オラ、オラ」と挨拶が飛び交う光景は圧巻であった。
 夏の暑さもあったけど、結構朝早くから目を覚まし、彼女たちが目を覚ますのを待ち構えて、
自分もその和に加わり、照れながらも「オラ」と挨拶を交わしたことを思い出す。

 イタリーはナポリを旅した時、追い越し様、挙手を受けたことがある。それが礼儀と思い、わたしも挙手を返した。
 しばらくすると別な人が私のしょっているリュックのチャックが全部開けられていますよ、と注意を受けた。
 やはり「スリ」は「ちょっと失礼しますよ。」と挨拶してから盗みは働かないし、その時のあの挙手は、単に小ばかにされただけであると合点がいった。