「俺じゃない人の方がいい」
別れの電話であの人は云いました。
「余計なお世話だよ」って
目一杯強がって答えたけど。
 
ワタシはカズさんを裏切った時に。
そして双子を流産した時に。
カズさんに始末をさせた時に。
「次」なんて捨てましたよ。
 
きっとあの人は
ワタシと同じ様な過去を持つ誰かを
好きになったら受け入れるのだと思う。
 
だからこそ、過去に「意味がない」と
相手に云われるような流産をして
不完全な身体のワタシでも
一度は隣に置いてくれたのだと思う。
 
だから他意なく
「俺じゃない人の方がいい」と
別れの電話で口にしたのだと思う。
本心なんて知らないけど。
 
三度も子供を流して、堕胎した女が
「次の誰か」を探すと思っているあの人とは
こんなに見えている世界が違って
ワタシの人生の背景を楽観視出来るのかと。
支えてくれる人や帰る所や
どんな過去でも受け入れてくれる人が
"居る前提"の話を別れの電話でするあの人に
少し笑えました。
 
よく迷うけど
悲観なく否定なく先を考えられる
あの人のそういうところも
ワタシは好きだったけれど。
最後の最後にワタシの想いも事実も否定した。
 
「カズさんを選んだ」が
ワタシにとってどれだけ残酷な理由だったか
あの人は分からないのだと思う。
それがあの人が別れを決めた理由だから
分からなくてもいいのだけど。

もしカズさんが生きていたとしても。
裏切った挙げ句、流産の始末をさせた
一番深く傷付けたカズさんをワタシが選ぶ?
自業自得だけど、抱えた罪悪感を消して
ワタシが戻りたいと思っていると?
強く深い想いがあれば
どんな過去があっても関係ないと
許し合える想いがあれば戻れるとでも
あの人は思っていたのかな?

あの人が人を想う時は
そうなのかもしれない。
 
他に行くあてがないから
「次」がないから
カズさんに戻れないから
ワタシはあの人と
一瞬居たかったわけじゃない。
唯一無二と云える彼女と別れてまで
ワタシと居ていいのかって
負い目もずっとあった。
 
どんな人と出会うかなんて誰にも分からない。
ワタシの過去を許してくれる人が
この世にはいるかもしれない。
けれど。
秘密の罪を打ち明けて
許して受け入れて欲しいと誰かに伝える事は
あの頃のワタシも
今のワタシも出来ない。

だから「俺じゃない人の方がいい」と
あの人に云われても笑うしかなかった。

ワタシは「次」も「次の誰か」もなんて
あの時に捨ててました。
 
"ワタシがいない前提"の先の話なんて
他でもないあの人の口から聞きたくなかった。

前提が違うのだから
当然選ぶ結論も違う。
至極当たり前のこと。