ワタシはあの人を

共犯者にはしたくなかった。


それなのに。

妊娠を告げたあと沈黙するあの人に

「産む選択がないなら費用を出して」

とワタシは云いました。

何か話して欲しかっただけなのに

こんな浅はかなやり方しか浮かばなかった。

「いくら?」

次の日、お金が入った封筒を無言で渡して

あの人は帰って行きました。


子供の命を真ん中に置いても

こんな会話ややり取りしか出来ない二人に

"先"なんて、なに一つないと思いました。


ワタシはあの人を

共犯者にしたくなかったのに

お金を払わせることで

ワタシが犯す罪の共犯者に

しようとしてしまった。


あの人は

ワタシがどうしようもない人間だって

子供を殺す救いようのない人間だと

一番分かってた。


だからこそ

許されたい唯一の人だった。


自業自得の罪悪感に飲まれて

ワタシのダメなところも悪いところも

弱いところも見せてしまった。


このままでは

背中をさすってくれている手が

いつかワタシから離れる日が来ると

分かっていました。

だから罪と向き合う努力を

しなくてはいけないと思っていました。


封印したいだけの

証拠隠滅している犯罪者みたいに

生きていては駄目だと思っていました。


結果はそういう理由で捨てられたわけではなかったけれど。

不安定になったり、薬を飲むワタシに

ため息をついたあの人を見て

健全にならなくてはと思っていました。

ワタシがあの頃していたことは

間違いだらけだと

今なら分かります。


心友夫妻と会うことになった時に

「中絶のこと知っているんでしょ?」と

あの人は難しい顔をしました。

ワタシが堕胎の秘密を守れないと

こんな顔をさせてしまうんだと

身勝手な自分を後悔しました。


ワタシの身体が子供を殺したのに

自ら台で足を開き堕胎したのに

自分の罪から逃れるために

あの人を共犯者にしようとした。


ワタシから逃げてくれてよかった。

共犯者にしなくてよかった。