病院に運ばれたところから記憶がない。
麻酔から覚めたら白い天井にカーテンレールが見えて。
手には点滴の管が刺さってた。
双子は流れたと分かった。
身体が重くて瞬きするのもキツくて。
ベッドの脇で腰掛けていたカズさんの横顔が見えた。
補聴器を外しているのが見えた。
ワタシの血で汚れたシャツを掴んで泣いている姿が見えた。
ワタシは瞬きせずに見ていた。
そして「彼女に戻る」とあの人からの電話を取った。
麻酔から覚めかけたときにワタシは
あの人の名前を呼んだらしい。
手を握ってくれているのがあの人だとでも勘違いしたのか。
ワタシには記憶はないけれど
あの人の名前を呼んだと
後からカズさんに教えられて。
自分を裏切った女の流産の始末をさせられて
その上自分とは違う男の名前を聞かされた。
だからあの時カズさんは補聴器を外していた。
何も聞きたくなかったんだ。
ワタシはそうやってカズさんを傷付けた。
だから、流産の事をあの人に伝えられたとしても何ひとつ云える立場じゃないのに。
「許せない」とカズさんに云った。
ワタシは救いようのないクズだ。
いつでも自分だけを守る。
もし。お腹が痛んだあの時
あの人に電話をしようとしなければ
間違ってカズさんに繋がる事はなかった。
もし。ひとりで流産の始末を出来るワタシであったなら
カズさんをあんな傷つけ方しないで済んだ。
もし。あの時あの人の名前を口にしなければ
流産を隠して全て終わってた。
そうしたら子供を殺すことも流すこともなかった。
何万回も(もしあの時)って考えてきたけど
この通りの様。
言い訳にもならないことしか出てこない。
帰結したことに「If...」はない。
身勝手で愚かなワタシがしたことの
事実が残っているだけ。