あの日もあの時もいつでも

ワタシは怖かっただけ。

傷つくのが怖かっただけ。

 

22歳の時に交通事故で

妊娠と流産を同時に知って

その夜に彼から別れの電話があり

流産手術の同意書にサインを頼んだワタシに

「意味がない」と彼は答えました。

ワタシは傷ついたのだと思います。

「意味がない」と云われた事を忘れたくて

傷ついた自分から目をそむけました。

この時に自分の傷と向き合えばよかったのだと

今は思っています。

 

流産を機に知った自分の女として

不完全な身体と

向き合うのは難しく辛かった。

治ることをワタシ以上に

願うカズさんが隣に居て

申し訳ない気持ちと向き合うのが辛かった。

望む結果を聞けない治療の度に

傷つくワタシが居ました。

 

電話が来たら伝えようと思っていた双子は

初めての約束を待っている間に

流れてしまいました。

手術が終わったベッドで

あの人からの電話を受けました。

流れてしまった事を云おうとする前に

「やっぱり彼女に戻る」と

あの人は云いました。

消えたいなと生まれて初めて思いました。

 

流産の事は伝えないと決めたのに

カズさんがあの人に伝えて。

「何で云ってくれなかったの?」と

あの人は云いました。

「云えば何か変わったの?」ワタシの問いに

「間に合わなかった。

彼女にただいまって云って戻った」と

あの人は答えました。

知られたくなかった流産を知られた

この状況でワタシに止めを刺す

あの人の気持ちに

一日で変わる気持ちに

ワタシの中の何かが壊れた音が

聞こえた気がしました。

 

カズさんが亡くなって。

ワタシが裏切って別れたけれど

とても大切な、大事な人がこの世から消えて。

失う事を心から恐れるようになりました。

永遠なんて何もないけれど

それでも失うのが怖かった。

 

二度目の妊娠をした事を伝えた時に

「産んでよ」とあの人は云ってくれて。

悪阻が酷いワタシに差し入れを

届けてくれました。

あの人が隣に居ると悪阻は楽になりました。

多分男の子だと思うと先生に云われた事を

伝えたら「名前を考える」と云ってくれました。

だけど10日経つと何も話さなくなりました。

双子を流産した時の記憶や離れる度に聞いた

呪文みたいなあの人の言葉が

楽しくて嬉しくて幸せを感じていたワタシを

押しのけてどんどん占領して。

黙る理由を聞くことが怖くて。

一緒に居たわけでも

約束があったわけでもないけど

「産んでよ」の気持ちが

変わってしまったあの人から

また「やっぱり彼女に戻る」を

聞くのが怖くて。

「一人でも産む」と伝えて

「堕ろして」と云われるのが怖くて。

そして一番失いたくない子供を殺す

堕胎を一人で決めました。


云わなかった後悔から

伝えた二度目の妊娠も

受け入れてはもらえなかった。


伝えたいことを伝えることは

時として痛みを伴うことも

伝えたって

受け止めてもらえるわけじゃないことも

分かってた。


ただ傷つくだけだったのにね。

それだけのことだったのに

ワタシは弱すぎて

自分を「ただ傷付くこと」から守って

逃げてしまった。