あの時ワタシには理由が分からなかった

あの人から置かれた距離は

離れていくばかりで
電話には出てもらえず
折り返しもなかった。
「おやすみ」だけのメールの返信も

届かなくなった。
ワタシは必死に考えたけど
理由は分かりませんでした。

そして妊娠を知りました。
堕胎の後、あの人と居るようになって。

堕胎した子は

忘れ物を取りにいっているだけで

戻って来てくれると

自分勝手なおとぎ話みたいな事を

考えていたワタシは

また宿った命に願いが届いたんだと

涙が止まりませんでした。

置かれた状況はとても不安定だったけど
それでもワタシは嬉しかったんです。


伝えようとした電話が

あの人に繋がることはなかったし

妊娠しましたのたった一行を

メールすることもできませんでした。


もう二度と絶対に中絶はしたくなかった。
「叶うならこの子をあの人と迎えたい」

「一人でも必ず産む」
この二つをいったりきたりしている内に

あの人に妊娠を伝えるべきなのかも

分からなくなりました。

そのくらい、あの人を遠くに感じる距離に

心が折れそうでした。


そんな時に愛ちゃんが自死を図ったと

連絡が入ってワタシは混乱しました。

そして父が倒れて。
駆けつけた病院で
続いていた悪阻が治まってる事に

気が付きました。
すぐに診てもらったけれど
「心音がない。流産は止められない」と。
もうここで消えようと思いました。

だけど。
愛ちゃんに奇跡が起きて
目を覚ましたら
抱きしめてあげたいから。
もしかしたら子供の心音が

戻るかもしれないからと

止まりました。


愛ちゃんの容態と

お腹に心音が止まった子が居て。

どうしていいか分からなくて

全てが怖くて辛くて苦しかった。


10年抱えていた事を打ち明けたワタシに

「よく頑張ったな」って抱きしめてくれた

12月のあの夜と同じ日に。

また抱きしめてくれるんじゃないかって

あの人の部屋の灯りを見上げながら

縋る思いで掛けた電話にも

出てはもらえませんでした。


家に帰って

「別れしかないなら、それに従う」と

メールをしました。


すぐにあの人からの電話が鳴りました。


(そうか。

ワタシからの別れの言葉を

あの人は待っていたのだから

そりゃ電話に出て貰えないわけだ。)

って少し笑ってしまいました。

こんな終わりなのかと

長いため息が出ました。