昨日、家族に頼まれて市場へ買い物に行きました。

料理好きのカズさんがいつも買い物していた市場。

二人で来て以来、どの位ぶりなんだろう。

ワタシはカズさんと一緒に行った場所に行けない訳ではありません。
二人で歩いた散歩道もドライブコースも喫茶店も買い物に行った店や図書館だって、行けない訳じゃない。
少し構える事はあっても、行けない訳じゃない。

昨日だってそうなるハズだったのに。

市場の入り口の果物屋さんで声を掛けられた。
「久しぶりじゃない?」
聞き覚えのある声の主はカズさんとよく通った飲み屋さんのオーナー。

数年ぶりの再会に嬉しそうなオーナー。
通った店は他の人に譲り、今は違う店をやっている話をワタシにしながら、キョロキョロ。

「旦那さんは?」
「ワタシ独身だよ」
「あっそうなの?じゃあ…」
会った時から動悸が始まっていました。
こんな会話が予想出来たし、じゃあ…の後の質問になんて答えたらいいのか頭は混乱していました。

まだワタシはカズさんの死を周りの人に伝える事が出来ないでいます。
うまく言葉が出てこない。
関係にもよるけど知り合い程度の人には話す気にもならない。
残されて気の毒にって同情の目もセットで
「いつ?」「なんで?」
「大丈夫?」
云われる聞かれる事は決まってる。
泣かれたりすると逃げ出したくなる。

カズさんと一緒に行った場所にワタシは行けない訳じゃありません。
その場所で二人を知る人にこうして会うのがいやなのです。

ワタシはカズさんの死を誰かと共有したいわけではないんです。
共有なんてしたくないんです。


「あっそうなの?じゃあ今日カズさんは?」


「一緒じゃないです」


これで済ます。

別れた事、カズさんが亡くなった事は告げない。

これでその人の中でカズさんは生き続ける。
市場で買い物したりするカズさんのまま。

誠実に生きていないワタシに同情の眼差しも言葉も掛けない。


誰とも共有出来ないワタシ。
誰ともカズさんを間に繋がりたくないワタシ。

自己的満足で事実を曲げるワタシ。

ワタシなりにカズさんの死を受け入れているつもり。カズさんの息吹を感じる事が出来ない毎日にも慣れた。


狂ったまま過ごし、事実をひたすら隠す。



ドコデスカ?