カズさんがろうあ者である事はすぐに分かりました。




でもカズさんの口から出た言葉はとても綺麗でゆっくりと心地よくワタシの耳に届きました。

だからかな・・・聞き取れない言葉はなかったから聞き返す事もなかった。


「オレンジの香りがするけど、何故ですか?」って聞いたら

「さっきまで搾っていました」って。


ワタシはその時、残念そうな顔をしたのでしょうか。


「残念?」とカズさんが云いました。


「香水かと思ったのでしょう?」「その通りです」


そんな会話の後、

「明日 ここで会いましょう。搾りたてのオレンジジュース持ってきます」


「あまりオレンジジュースは好きではありません。タバコと相性悪いから」


カズさんは残念そうな顔をしました。


「残念?」と聞くと


「はい。とても残念です。」

とても残念そうな、淋しそうな顔をして、次の言葉を探しているように見えました。


「オレンジジュースはズブロッカと割って飲むととてもおいしいです」

ワタシが云うと


「じゃあ そうしましょう。きっと今までで一番おいしいズブロッカになります」


カズさんは笑って膝を二回叩きました。


「ベタなリアクション」って笑ったら


「ベタの意味は明日まで調べて来ます」と笑ってベンチを立ちました。


(明日 何時にくればいいの?雨降ったら?)のワタシのつまらない心配なんかに

全く気が付かない様子でカズさんはラジコンを走らせて帰っていきました。


ワタシはこの夜の出会いを何度となく思い出したし、考えました。

ベタなワタシは運命を感じたりして暖かい気持ちになったりしました。

今では呪ってみたりします。



彼がワタシに出会わずに居たならば、当然それはそれで別の人生を歩んでいた訳で

どんな人生だったか妄想チャンネルを合わせてみたり。


出会わずに居たなら、

カズさんは今日も何処かでオレンジを絞ったり

ラジコンを走らせていたりしてたのではないかって思うのです。





ドコデスカ?