こちらは妄想小説となっております。
ご本人様とは一切関係ございません。
現実と区別が付けられる方のみお読みください。
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段ボールの中に、もう必要としなくなった物を詰めていきながら、なんでこんな事になったんだと溜息がでる。
この間、新しい部屋を契約したついでに、おんちゃんに報告すると、引っ越しの準備を手伝ってあげる!と返事があった。
それならばと、引っ越しついでに荷物を減らす予定だから、もし良かったら何か持って帰る?なんて聞いたのが運の尽き。
初めはもぎさんと2人で来る予定だったらしいけど、もぎさんからゆうちゃんにその事が伝わり、ゆうちゃんも一緒に来る事になった。
それだけならまだ良かった。
どうしてか、2人は遅れてくるから、ゆうちゃんだけ先に向かうと言うおんちゃん。
なら、時間をズラすよと提案しても、大丈夫だからと断られてしう。
ゆうちゃんも一緒に来ると言う時点で、妹を呼ぶとか何か対策をしておくべきだった。
急遽決まった事に、慌てて連絡を取ってみたけど、既に予定が入っていたようで、それも叶わない。
『はぁ…どうしよう。』
この部屋にゆうちゃんが来るのは、事故以来初めて。
もしかしたら、何か思い出すかも…なんて考えが過ってしまう私は、全然ゆうちゃんを諦められてなんかいなかった。
もう、この家で待つのはやめようって、ゆうちゃんを想って泣くのもやめようって決めたはずなのに、心の奥深くに押しやった気持ちが、今にも顔を出してしまいそう。
そんな、強くなれない弱い自分を蔑む。
ゆうちゃんからメッセージが来た時は、なんて返したらいいのか分からなかった。
初めは断ろうか悩んだけど、言い訳が思い浮かばなかったし、もぎさんとおんちゃんも来るのにゆうちゃんだけ断るのも変だから、分かったとだけ返事した。
少し素っ気なかった気もするけど、ゆうちゃんの事だからあまり気にしてないだろうな。
とりあえず大体の整理を終え、後はみんなが来るのを待つだけ。
……そう、もうすぐゆうちゃんがこの家に来る。
立ち上がって部屋の中を見渡すと、片付いた部屋に、山積みとなっている段ボール。
初めてこの部屋に来た日を思い出す。
あーでもない、こーでもないと言いながら家具の配置を決めて、2人とも汗だくになりながら荷解きしたっけな…
幸せだった日々が、ついこの間のように感じるのは、1週間後に迫った引越しに感傷的になっているせい。
(ピーンポーン)
インターホンが、来客を知らせてくる。
モニターに映るゆうちゃんを確認してから、ロックを解除し、ソワソワと落ち着かない気持ちを無理やり落ち着かせる。
エントランスから部屋まで、3分もかからないはずなのに、物凄く長く感じる。
(ピーンポーン)
今度は、部屋のインターホンが鳴り、鍵を開けるために玄関へと向かう。
扉を開くと、予定通りゆうちゃんが1人で立っていた。
『いらっしゃい。』
「うん、お邪魔します。」
靴を脱いでだゆうちゃんが、部屋を見渡しながら「もう、引っ越しの準備終わってるんだ…」と、あっちこっちに積んである段ボールを見て呟く。
『はい。結構突発的に決めたんで、退去日まで余裕がなくって、慌てて片付けたんです。』
「まだ3年しか住んでないんでしょ、どうして更新しなかったの?」
『んー、まぁ、一区切りって感じですかね?』
「?」
頭にハテナを浮かべるゆうちゃんを、リビングへと促す。
「うわぁ、ほんとに全部片付いてるんだね。ここって1LDK?」
『………3LDK、です。』
「…広いんだね。」
一人暮らしには充分過ぎる部屋で、ゆうちゃんは何か言いたげにリビングを眺めている。
そりゃ、広いよ。
ゆうちゃんと2人で暮らしていくための部屋だったんだから。
それぞれの個室と、寝室を確保した間取りは、1人で暮らしていくには広すぎる。
それに、ゆうちゃんが事故にあってからは、私は寝室で一度も眠っていない。
いや、眠れなかった。
もうここには居ないのに、ゆうちゃんの匂いだけが残っていて、寂しくてどうしようもなかったから。
何度も何度も、あのベッドの上で泣いて夜を明かした。
思い出したくない記憶が蘇って来て、私は深く深呼吸をする。
それだけ辛くても、部屋の契約が切れるまで引っ越さなかったのは、ゆうちゃんが帰ってくるかもしれない希望を、捨てきれなかったから。
結局、その希望は叶わず、思いもよらない形でゆうちゃんが、この家にやってきたけど。
『あ、この段ボールとその周りにあるやつが、見てもらうものなんですけど、いいのありますか?』
リビングの中央に置かれた段ボールを指差す。
なにか欲しいものがあればいいなと思って、様子を見ていたけど、段ボールの近くに座ったまま何もしないでいる。
『見ないんですか?』
「………なぁちゃん、最近、いつもの指輪してないよね。それも、ここに入ってるの?」
『っ、え?』
急に指輪の事に触れられて、言葉に詰まる。
なんで?今まで一度も話題になんてならなかったのに…
「ねえ、なぁちゃん」
何も答えられずに俯いていると、いつもよりずっと柔らかい声で、私の名前を呼ぶ。
顔を上げると、じっと私の目を見つめたまま、逸らされる事のない視線。
いつもは、人と目を合わせるのが苦手だって、ゆうちゃんの方から逸らすくせに。
この3年間、ゆうちゃんがこの部屋にいる夢を、何度見たかな。
ゆうちゃんに何が言いたいのか分からなくて、言葉が出てこない。
それに、今口を開いたら、堪えている涙が溢れて、みっともなく縋ってしまいそうになる。
だから、私は何も言えないし、なにもできない。
「………なぁちゃんは、何を隠してるの。」
静かな、けれど逃すつもりは無い、という意思が伝わる声に、思わず息を飲んだ。
「……あの指輪、なんでなぁちゃんは私にくれたの?」
答えて、と彼女の凛とした声が部屋に響く。
ああ、なんだ……そこまで分かってるくせに、それが事実かどうか確認するために今日ここに来たんだ。
この様子じゃ、もぎおんも知ってるんだろうなぁ。
知らない間に握りしめていた手のひらから、力をぬいてゆうちゃんに微笑みかける。
『さぁ、覚えてないですけど、誕生日とかにあげたかもしれません。』
「はぐらかさないでよ。」
『…はぐらかしてないですよ。』
「じゃあ聞くけど、ただの友達にペアリング、プレゼントする?」
『偶々欲しかったリングが、ペアでしか売ってなくて、余ってたからプレゼントした。それならおかしく無いですよね?』
「じゃあ、なんでずっと3年間外さずに、大事にしてたの。」
『………………』
そんなの、決まってる。
周りも知らない、ゆうちゃんも覚えてない、夢じゃ無いって証明できるのは、これだけだったから…
「……ねぇ、なぁちゃんと私って、どういう関係だったの。」
『どういうって…………大学で出会って仲良くなって、社会人になってもよく集まる、友達ですよ。』
「っ、なぁちゃん!いい加減に、ちゃんと話してよ!!!」
それをゆうちゃんが言うの?
『いい加減にして欲しいのはこっちだ』と、つい口走ってしまいそうになって下唇を噛み締める。
キッと睨んでくるゆうちゃんに、無言で見つめ返していると、彼女が項垂れるように目を逸らした。
そのままスッと立ち上がり
「ごめん、おっきい声出して、ちょっと頭冷やしてくる。」
と言ってリビングから出ていった。
リビングから遠ざかる足音を聞きながら、ギュッと固く目を閉じた。
ゆうちゃんとこうやって喧嘩したのはいつぶりかな。
些細な喧嘩はよくあって、優しい彼女はいつも拗ねる私を見ては、あの手この手で笑顔にしようとして、たまに意地を張って中々謝れない時も、気持ちの整理が付くまで、ずっと傍で寄り添ってくれてた。
でも、今はその温もりがここには無くて、その事実が、あの時間までもを否定しているような気持ちにさせる。
悔しくて、それなのにどうにもできなくて、固く閉じたはずの目から雫が落ちそうになる。
だめだ、落ち着かないと、ゆうちゃんがいる今は、彼女がいる間だけでも、泣くわけにはいかない。
閉じていた目をゆっくりと開いて、ベランダに向かう。
この熱が少しでも早く冷めるように、手すりにもたれかかって空を仰いだ。