ICUからHCU、そしてやっと一般病棟へとうつった父。一般病棟ではスマホを持つことが許され連絡をとるのが容易にはなったが、相変わらず父は出される食事のほとんどを食べれないままだった。


寝たままでいるとどんどん筋力が落ちる為、少しでも動けるようになった人は少々無理をしてでもトイレへ立たせたり、リハビリへ通わなければいけなかった。



父は元気な時もそうだったように、言われた事は一生懸命に取り組んでいたようで看護師さんからも『お父さん、リハビリも毎日一生懸命頑張っておられますよ〜』と伺っていた。



そんなある日の夕方、外で母が泣きながら誰かと話している声がした。尋常じゃないほどに泣いている声がする。



心配になって外へ見にいくと、誰かと電話をしているようで相手はどうやら父のようだった。

電話を切るなり母へ駆け寄り、何かあったの?!と尋ねた。



すると母は嗚咽を漏らしながらこう答えた。



『父ちゃん、もう、化学療法も放射線治療もできないって先生に言われたんだって…。ご飯も食べれないから…立つのもやっとの状態だから…今の体力で治療をすることはできないって言われたんだって…。父ちゃん泣いてた…。悔しいって…。父ちゃん、かわいそうなくらい泣いてた…。』


そう言い終わると母はまた堰を切ったように声を上げてわんわん泣いた。


わずかな望みだと分かっていながら、治療がしたいと頑張ってきた父が今どんなに辛いか…遠く離れた病院で一人、どれだけの不安に耐えているかと考えると、いてもたってもいられなくなってすぐに父のスマホに電話をかけた。


何度も、なんども、何十回も鳴らした…。


けれど、この日父が私の電話に出ることはなかった…。