介護労働ばかりではない。介護保険制度スタートの翌年に発足した小泉政権による「構造改革」は、給食調理員、保育士、窓口事務、図書館司書など、住民に直接対応する公務サービスが、軒並み、非正規化・民間委託化されていった。(中略)
代表例が、公立図書館の司書だ。二〇〇〇年代に入ったころから、公立図書館では年収一四〇万円、一五〇万円の有期雇用の非正規司書に切り変える例が相次ぎ、財政難の中で、やがては、民間会社への図書館運営の委託や指定管理者制度が広がった。ここでも介護と同様、民間経営者の下で、歯止めは最低賃金だけとなり、低賃金化が進んだ。
本が好きで資格を取って司書になったという都内の三〇代男性も、指定管理者制度により民間委託された図書館で、思わぬ憂き目にあった。年間二〇〇万円程度の低収入はもちろんつらかった。加えて司書の知識を生かして公的に所蔵しておく価値があると考えた図書を購入すべきだと主張したことが、「一般の人が好むベストセラーを入れて数字の上で貸出実績を上げれば、役所に評価されて再委託契約がもらえる」として一蹴された。
図書館の司書業務には専門性が必要だと記事に書いたところ、読者から「たかが貸し本の仕事に、高い賃金はいらない」と批判の投書を受け取って驚いたこともある。
竹信三恵子『家事労働ハラスメント――生きづらさの根にあるもの』(岩波新書、2014年)169~171ページより引用。
日本型雇用システムは変化したが、とくに重要なのは、日本型雇用システムの対象メンバーを厳選するようになったという点である。こうした方針変更の「宣言」が、一九九五年の日経連の「新時代の日本的経営」であった。
そこでは、雇用のポートフォリオとして、労働者を長期能力蓄積活用型(=正社員幹部候補)、高度専門能力活用型(=専門職種)、雇用柔軟型(=短期非正社員)の三つのグループにわけて、組み合わせることが提案された。その後、雇用規制の改革以後、派遣労働が解禁された。正社員は比較的強い解雇規制で守られるのに対して、非正規労働者の解雇や人員調整は容易になったのである。そして、社会保険の適用外の労働時間や雇用期間にすることにより、企業の社会保険料の負担も節約できるため、非正規労働者の雇用は急速に伸びた。
また、高卒向けの若者雇用の場が消滅していく一方で、増加したのが大学進学者数である。
大卒人数は九〇年代以降の二〇年間で一.四倍程度に増加した。大企業の幹部候補生である正社員数が厳選される一方で、大学卒業者数が増えたため、就職活動は年々加熱した。そのため正社員になれなかった新卒学生の選択肢が、非正規労働者となったのである。
日本型雇用システムのなかでは、非正規労働者は、企業というコミュニティの「正規メンバー」とは見なされず、企業への忠誠心も期待されない。転勤や配置換えという企業に人生をコミットメントされる息苦しさがない代わりに、企業内訓練もおこなわれず、長期に雇用されても経験が評価されず、特定の企業に長く勤めたからといって賃金が上昇するわけではない。
日本の賃金構造は、欧米の産業横断的な職務給体系ではなく、企業とのかかわり方で賃金体系が異なる。正社員は中長期的な貢献度に応じた賃金体系になっており、外見上は同じような仕事をやっていても長期的に担う役割や期待は異なっている。
このように正社員は属人給、非正規労働者の賃金は、派遣労働に代表されるように外部労働市場の需給関係で決められることになる。年功給や職能給である正社員と非正規労働者のあいだには、同一労働同一賃金は期待できず、賃金と処遇の大きな格差が発生することになった。
駒村康平『日本の年金』(岩波新書、2014年)18~19ページより引用。
代表例が、公立図書館の司書だ。二〇〇〇年代に入ったころから、公立図書館では年収一四〇万円、一五〇万円の有期雇用の非正規司書に切り変える例が相次ぎ、財政難の中で、やがては、民間会社への図書館運営の委託や指定管理者制度が広がった。ここでも介護と同様、民間経営者の下で、歯止めは最低賃金だけとなり、低賃金化が進んだ。
本が好きで資格を取って司書になったという都内の三〇代男性も、指定管理者制度により民間委託された図書館で、思わぬ憂き目にあった。年間二〇〇万円程度の低収入はもちろんつらかった。加えて司書の知識を生かして公的に所蔵しておく価値があると考えた図書を購入すべきだと主張したことが、「一般の人が好むベストセラーを入れて数字の上で貸出実績を上げれば、役所に評価されて再委託契約がもらえる」として一蹴された。
図書館の司書業務には専門性が必要だと記事に書いたところ、読者から「たかが貸し本の仕事に、高い賃金はいらない」と批判の投書を受け取って驚いたこともある。
竹信三恵子『家事労働ハラスメント――生きづらさの根にあるもの』(岩波新書、2014年)169~171ページより引用。
日本型雇用システムは変化したが、とくに重要なのは、日本型雇用システムの対象メンバーを厳選するようになったという点である。こうした方針変更の「宣言」が、一九九五年の日経連の「新時代の日本的経営」であった。
そこでは、雇用のポートフォリオとして、労働者を長期能力蓄積活用型(=正社員幹部候補)、高度専門能力活用型(=専門職種)、雇用柔軟型(=短期非正社員)の三つのグループにわけて、組み合わせることが提案された。その後、雇用規制の改革以後、派遣労働が解禁された。正社員は比較的強い解雇規制で守られるのに対して、非正規労働者の解雇や人員調整は容易になったのである。そして、社会保険の適用外の労働時間や雇用期間にすることにより、企業の社会保険料の負担も節約できるため、非正規労働者の雇用は急速に伸びた。
また、高卒向けの若者雇用の場が消滅していく一方で、増加したのが大学進学者数である。
大卒人数は九〇年代以降の二〇年間で一.四倍程度に増加した。大企業の幹部候補生である正社員数が厳選される一方で、大学卒業者数が増えたため、就職活動は年々加熱した。そのため正社員になれなかった新卒学生の選択肢が、非正規労働者となったのである。
日本型雇用システムのなかでは、非正規労働者は、企業というコミュニティの「正規メンバー」とは見なされず、企業への忠誠心も期待されない。転勤や配置換えという企業に人生をコミットメントされる息苦しさがない代わりに、企業内訓練もおこなわれず、長期に雇用されても経験が評価されず、特定の企業に長く勤めたからといって賃金が上昇するわけではない。
日本の賃金構造は、欧米の産業横断的な職務給体系ではなく、企業とのかかわり方で賃金体系が異なる。正社員は中長期的な貢献度に応じた賃金体系になっており、外見上は同じような仕事をやっていても長期的に担う役割や期待は異なっている。
このように正社員は属人給、非正規労働者の賃金は、派遣労働に代表されるように外部労働市場の需給関係で決められることになる。年功給や職能給である正社員と非正規労働者のあいだには、同一労働同一賃金は期待できず、賃金と処遇の大きな格差が発生することになった。
駒村康平『日本の年金』(岩波新書、2014年)18~19ページより引用。