義弟の結婚式には夫と叔父(実両親ではなく養子縁組をしました。夫の実父の兄)と私の3人で、タクシーで式場へ行きました。


会話もない何とも暗い車内。


私は夫から離婚をしたいと言われている身。


夫の親族とは無理な愛想笑いや会話はしないようにしていました。取り繕うことも無理に笑う必要もないと思ったから。


もちろん話しかけられたら答えますが、気を遣って自分から話しかけたりはしませんでした。


こんな私たちの状態を結婚式に来る親族はどこまで知っているのか‥


しかも私が死産したことは親族で知らない人はいないはず。


たった一人で敵だらけの戦場へ向かう、そんな気持ちだったと思います。


今でもよくあの時結婚式に行ったなと思います。


当時は「逆境」という言葉がよく頭にあった気がします。


強くなりたい、いつまでもくよくよしている自分が嫌で、何とか前に進ませるために敢えて辛いことをしようとしていたような気がします。



タクシーで着いたらチャペルがあり綺麗で立派な式場でした。


親族用の待合室があり、そこには久しぶりに見る親族がたくさんいました。


みんな和気藹々と話をしてに賑やかでした。


久しぶりに会うので挨拶は一応しましたが、何だか私に気を遣っている空気が重苦しくて、あまり目を合わせないようにしました。


空いていた椅子に私と夫と叔父3人並んで座っていると、夫のいとこのお嫁さんが目の前に現れました。脇にはベビーカーに座っている男の子。


それを目にした瞬間、私の中で心が壊れる音がしたような気がします。


あの時の私の動揺は周りに伝わってしまっただろうか‥


必死に平静を装いましたが、きっと痛々しかっただろうな。


その男の子はすでにお座りができるくらいしっかりしていて、よだれ掛けをかけてオモチャを手にしていました。


そのあまりにも人間らしい赤ちゃんの姿に私は驚愕しました。


私のあの子も生まれていたらこんなに‥?と本当に衝撃すぎて言葉が出ませんでした。


「もうこんなに大きくなったの?可愛いね。名前は?」


私は苦し紛れからなのか、動揺を隠すためなのか、本当にそう思ったのか分からないけれど自分から話しかけました。



お嫁さんは一瞬ホッとした様子で、それでも私に気を遣って話してくれて、全然嫌な気はしませんでした。明るくて本当にとても良い子なんです。


夫も男の子に話しかけたりしていて、和やかな雰囲気になっていました。


赤ちゃんの存在って本当にすごい。みんなが注目して笑顔になる、パッと雰囲気を和ませてくれる。


ただ私だけは地獄そのものでした。


胸がえぐられるような悲しみ、可愛いのに見たくない、羨ましくて羨ましくて、誘拐してしまいたい程。そんな自分が惨めで情けない。


心と頭はぐちゃぐちゃになっていました。


泣かない、泣かない。自分で言い聞かせ、愛想笑いをし、必死に平静を装っていました。


そんな時、いとこのお嫁さんの姑(夫の実母の妹)が私に明るい声で


「○○ちゃん、痩せたんじゃな〜い?ちゃんとご飯食べなきゃ!まだ次の子作らないの?」



と言ってきました。


私たちのことを知ってか知らずか、あまりに無神経な言葉にショックすぎて固まってしまいました。


明るくて面白い叔母さんはきっと深く考えずに言ったに違いない。でも「次の子」なんて‥


まだ我が子を亡くして間もない私に、しかも夫と離婚するかもしれないのに‥


返答に困り、私は「いや、まだ‥」と言葉を濁すと叔母さんは


「まだ若いんだから次早く作ったらいいのよ!」



とまた明るく強めに言ってきました。


私は返事も出来ず「はは」と小さな愛想笑いをしました。


もうその後の結婚式の記憶は正直あまりありません。


どうやって帰宅したのか、何をしたのか記憶にないんです。


あの結婚式はきっと私の試練だったはず。強くなるための試練。


叔母さんの無神経すぎる発言もキツかったけれど、一番は同じ時期に妊娠していたあの子の赤ちゃんに会った事です。


あの子の姿があれからしばらく頭から離れませんでした。


助け舟など一切出さなかった夫はあの時の事を覚えているだろうか。そして覚えているなら何を思ったのか。きっと何も思っていないに違いないだろうな。