ちょっとしたうわさを聞いて、近くを通りがかったから入ってみたカフェバー。
時刻はすでに夜で、酒が出る時間。
カウンター席に座って、おすすめのを頼んだ。
店主は白髭の優男。
若い頃は女に困らなかっただろうな、と印象を受けた。
(まぁ、空想の域だが)
夜には歌い手もいるらしく、どうも店主の孫らしい。
ドレスを着て、なかなかうまい心のこもった歌だ。
この娘っ子は恋をしているな、と思った。
(まぁ、これも空想の域だ)
気づくとカウンター席近くの照明がチロチロと点滅している。
思わず凝視すると、そこにはうわさの「妖精」がいた。
「妖精・・・?」
「ああ、時間だなぁ」
店主がランプのふたを開けてやると、妖精が羽を広げて飛び出して来た。
可愛らしいドレスを着た指丈の女の子だ。
羽根はみゃくが透っていて、透明なのに虹色に光沢がある。
「名前あるの?」
「かぐや」
「ほー・・・可愛いね」
そう言うと可愛い妖精さんは大きく何度もうなずいた。
そのあと店主がさくらんぼを示すと、喜んで食べていた。
そこに店主の孫の歌い手が来る。
耳打ちしたが、偶然わたしは耳が良く聞こえてしまった。
「変化の時間が来た」
「分かった。ノア、下がりなさい」
「・・・ん?」
「いえ、孫は身体が弱くてね」
しばらく喰って呑んでをしていたが、勘定を済ませて店の外に出た。
すると「お客さん、忘れ物っ」と声がした。
そこにはラフな格好をした美男子。
忘れ物はハンカチで、身に覚えがなかった。
「わたしものではないよ」
「えっ、すいませんっ」
「いい、いい。歌声、素敵だった」
「はい。光栄・・・え?」
ふと、笑ってしまった。
「やっぱりアトリメデユーナなんだね。僕の親戚にもいたんだ昔」
「・・・どんなひとでしたか」
「運命のひとに出会う前に、亡くなってしまった・・・残念だよ」
「そうですか・・・」
「気遣いありがとうね」
「いえ」
「じゃあ」
彼が店に戻って、少しぼうっとしながら歩く。
アトリメデユーナ・・・特別両性体。
時間や感情変化で、性別が変わる特別特殊体質、だ。
さっきの子は運命の相手に出会えるといいな。
そんな風に思った。
・・・多分、あの店にはもういかない。
アトリメデユーナに片想いをしていた昔を、思い出すから。