”弱っちい”翼、”頑固な”父親、”男らしい”鉄矢、 ”母親が好きな”小柳さん、それでもそれぞれに性格の表と裏があって、それが家族として成り立っている。
“子どもの頃大人は泣かないと思っていた。そんな風に思えるほど子どもだった”
それぞれの視点で描く物語には、温かいラストが待っていた、、、、、
著者、寺地はるな『大人は泣かないと思っていた』読んだら絶対に心温まる恋愛小説だ。離婚、時代の変化、両親との複雑なおもい。軸に沿るだけではなくどこかで寄り道していきながら物語を展開していく。今まで読んだことのない大人のラブストーリーだ。そんな物語をみんなに読んでもらいたいと思い、ここに綴っています。
寺地はるなさんの恋愛小説とは
ふつう、恋愛小説といえば、中学生なのに許嫁がいて、その子がなぜか同じクラスだったり、死んでしまう病気を隠しながら恋愛する女子だったりと、自分だったら絶対に遭遇しないであろう、妄想話が多い(私の勝手な予想)。しかし、寺地はるなさんが描いた恋愛は「日常」だ。作り話なんだけど現実味があって共感できる、そんな物語。それは、男と女の恋を主体として描くのではなく、男女とそれをとりまく周りの人を描き、最後に一つに繋がり読者にぬくもりを与えてくれる。
時代の境目を描く
体罰が今よりもあった時代。悪いことをしでかしたら、モノで殴られたり、蹴られたり、罰が重かった時代。その時代を生きてきた世代が大人になって子どもを生み、「男は角刈りにしろ」「女はでしゃばるな」と教育してきた。しかし世の中もダイバーシティ、公平、Not体罰、今までとは真逆の考え方を持ち始めるようになった。つまり、体罰なんか普通にあった時代と絶対に許されない時代の2つが共存するようになったのだ。寺地はるなさんはその社会構造を顕著に表している。
本の中で主人公の翼が、飲み会で上司にお酒をつぐのに疑問に思うシーンがある。ルールに縛られずに自分を突き通すことに加えて、世の中に対してツンと当たっている好きなシーンだ。周りからの評価なんかまるで気にしていないかのように社会にポツリと存在するのはできそうで、できないことだと思う。お酒をつぐことに関しては必要なおもてなしじゃないかという人もいるかもしれない....その時点でどう捉えるかは自由だが、全部が全部、おもてなしだ、ルールだという風に捉えて(思い込んで)いるのではないか。
個人的に好きなトコロ
流れるような話のなかで必ずどこかで面白いフレーズを入れてくる。寺地はるなさんのどの本を読んでいてもそう感じる。『大人は泣かないと思っていた』から引用。
「あの女、とは隣の家に住んでいる田中絹江(御年80歳)のことだ。女優みたいな名前しやがって、とも父は言うが、俺はそんな女優は知らない」9頁,2行目
この流れをさらっと言える台詞を見たとき、すごくかっこいいなと思った。これから笑わせますよ、と無駄にハードルを高くしたり、ベタ過ぎてツッコミが変に聞こえたりしない。スピーディーに駆け抜けるこの文章は、無性に笑える自然な笑いだった。
時田翼と幼なじみの鉄矢の会話で...
鉄矢が翼にあの女を狙っているんだろ、とそそのかす。
「『やめろ犯罪じゃないか』
あの子未成年じゃないのか、と訊ねると、もう22歳だと言う。
『じゃあ犯罪じゃないだろ』
精神的な犯罪だ、とわけのわからないことを言って翼はレピシ本をぱたんと閉じる。」
私が一番お気に入りなところは、「精神的な犯罪だ、とわけのわからないことを言って翼はレシピ本をぱたんと閉じる」と表現していることだ。「〜とわけのわからないことを言って」というのは落語を聞いている方々ならおわかりいただけると思うが、よく使う台詞だ。(私だけなのではないかという不安。)「そうやって彼はわけのわからないことを言うんだ」と半分アメリカンジョークのようなもので笑いをとる。私はこの台詞を読んでいて寺地はるなさんはお笑いが好きなのではないか、という勝手な妄想をしている。
『大人は泣かないと思っていた』
『大人は泣かないと思っていた』この本は私にとって、大切な本だ。もともと、寺地はるなが描く物語が好きだったのだが、『大人は泣かないと思っていた』は、私が初めて”寺地はるな”さんを知った本だ。人生に躓いたときや疑問に思ったときに、この本で一つでも手がかりになることが読み取ることができる。ぜひみなさんに、この本を(寺地はるなさんの作品に)触れてもらいたい。
寺地はるな
1979年生まれ。佐賀県出身。結婚の後、大阪に移住する。会社勤めと主婦業の傍ら、35歳から小説を書き始める。2014年「ビオレタ」で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞。2015年6月に単行本化され、作家デビューを果たし現在まで数々の著書を残している。著作に「今日のハチミツ、あしたの私」「水を縫う」「声の在りか」などがある。
