7時半を回った頃、近所の人達も集まっていた時、100メートル位先のオレンジ色の街燈の下に自転車を押しながらゆっくり歩く小さな人影が見えた。
「フミオー。」
父と私は叫びに近い声で走っていった。その時母は、まだ別の所を探していた。
フミオの側まで行くと何か様子がおかしい。よく見ると自転車の前のタイヤがパンクしている。フミオも裸足で全身びっしょり濡れて、ひどく疲れきっている。きっと増水した川の中を面白がって走っていたのだろう。私達の顔を見ても声も出さない位疲れきっていた。父はフミオを抱きかかえ、私は自転車を押した。
重い。パンクした自転車がこんなに重いなんて。一体小さなフミオはどれ位の距離をこの自転車を押して歩いて来たのだろう。フミオの姿が見えた方向は、私と母が探した川とは反対の方向だった。
父が集まってくれた人達にお礼を言っていた。警察にも報告した。
やがて母が疲れきって戻って来た。そして、フミオの自転車を見るなり、「この!この!」と自転車の車輪の部分を蹴り始めた。物凄い顔つきで。そして泣いた。その時初めて母の流れる涙を見た。
8時を過ぎた頃、4人で夕食を食べた。テレビはついていたが音が耳に入ってこない感じがした。あまり会話はなかった。
つづく…