峠のくにゃくにゃ道を上りてっぺんにある長いトンネルを抜けたころには日が暮れた。
目的地の医院は市街地と市街地を東西に結ぶいわゆる『旧道』沿いにあり、これからの時間帯は車が混み合うだろう。
峠の国道から北上してその旧道に突き当たるまでどう行くか?いくつものルートを思いつく。
やっぱこっち〜〜!
大きな独り言とともに選んだのは南北に流れる河川の土手ルート。信号の数が他より格段に少ない。
急(せ)かされる気持ちを抑え、安全運転を心がける。
旧道に入るとやはりかなりの渋滞だった。
ここからあと何㎞?信号はたしか、3つある。
ルームミラーの上にある時計は18:20、ぎりぎり間に合うかどうか?、、、ビミョーなところ。
◯◯耳鼻咽喉科、の看板が見えた!
気をつけながら滑り込むように駐車場に入る。時計は18:26。なんとか間に合ったーー!!
車から降りて旧道に面した医院の入口まで小走りで行く。
築数年と思われる新しめのこじんまりとしたその医院の入口は二重の自動ドアになっていた。
ドアが開くと思いきや、開かない。。。
ひとつめのドアとふたつめのドアのあいだのスペースに、『本日の診察は終了いたしました』と書かれた看板が立てられていた。
スマホの時計は18:27、、、
中を覗くと受付カウンターがあり、まだ灯りが点いていて女性が座っているのが見えた。
とっさに、『すいませーん!』と声を出してみたが、二重の自動ドアとふたつめのドアからカウンターも数メートルの距離があり私の声は届かないのか、俯き加減のままなにかをしている。
『すいませーん!すいませーん!!』
今度は自動ドアの前で手を振りながらさっきより大きな声で繰り返す。。。ダメかーー。
気がつくと私は、パーの右手でガラスのドアをバンバン叩きながら『すいませーん!すいませーん!』となりふり構わず叫んでいた。
ガラスを叩く手はじんじんするし、叫ぶことで息もあがってくる。とにかく必死に続けた。
しばらく続けていると、声が聴こえたのか、自動ドアをバンバン叩く振動が伝わったのか、たまたま偶然かは判らないが女性が私に気付き、カウンターの端に回ってこちらへやって来てくれた。
『診ていただけませんかーー、診察時間、6時半までではないのですかーー!?』
『ごめんなさい、去年の4月から6時15分までに変更されたんですーー』
『ええーーーっっ!!、、、そこをなんとか、診ていただけないでしょうかーー』
『そう言われましても、、、』
『調子がおかしくて困っているんです。どうかお願いしますーーー』
『どうされましたか?』
私は医院の薄暗い入口でマスクを外し、
『か、顔が歪んでるんです、、、』
と答え、困った苦笑いみたいな表情を作りたかったが、その顔はきっとなんとも言えない形相だったのだろう、、、
女性は、一瞬びっくりしたようだったがにわかに優しげな表情になり、
『先生に訊いてみますので、少しお待ちくださいね』
と診察室であろう奥へと向かってくれた。
その背中に、
『お願いします!お願いします!』と叫ぶ私。
あとから思うと、この女性が見た私の様子も、後ろ姿とは言え旧道のこの医院の前で渋滞中の車から見えた私の言動も、結構カオス!!
しかし、この涙ぐましい訴えの甲斐あってか?、
なんとか受診にこぎつけた、、、!!