「いよいよ明日だねー。」
「なんか、あっという間じゃない?」
「うん。」
早いもので、明日はもう体育大会当日だ。
まぁ、早く感じるってことはそれほど真剣にやってきた証だろう。
と、自分を勇気付けてみるけど、ぶっちゃけまぁまぁ不安だ。
もし、自分のミスで負けてしまったら。みんなの努力を潰してしまったら?
そんなことが頭を駆け巡る。
そう、オレはネガティブ、というか、心配性なのだ。
これは生まれつきというか、仕方ないというか、治しようがないのだろう。
「あっちゃんは緊張しないの?」
窓の向こうで、少し眠そうにあくびをするあっちゃんに尋ねる。
多分だけど、あっちゃんは基本緊張しない性格だ。
あっちゃんは、いっつものほほ~んとしてて、若干天然で、結構楽観的ってイメージ。
羨ましいかぎりだね。うん。
「緊張しないよ~。だって、私が失敗しても優子とか昴希が取り返してくれるもん。」
「な、なるほどね。笑」
「もしかして、緊張してるの~?
あーまぁ、確かに闘起心配性だからね~。
心配しなくても大丈夫だよ!あの三人は運動系ならなんでもできるから。」
その心の余裕が羨ましいよ。
「それにさー、闘起だって運動神経いいじゃん!大丈夫だよ!
なんかスポーツやってたの~?
待って!いわないで!当ててみる!
えーっとねー、野球じゃなさそうだなー!
テニスもなんか違いそーだしー。」
何故か少し興奮気味のあっちゃんをよそに、オレは部屋の片隅に転がるバスケットボールに焦点を合わせていた。
「ねぇー聞いてるのー?正解教えてよー?
ラクロスでしょ⁉︎ラクロスっぽい顔してるもん!」
「あっごめんごめん。
っていうか、ラクロスっぽい顔ってなに⁉︎
バスケやってたんだー。」
「、、、
バスケか~。ラクロスっぽい顔だと思ったのに~。」
少しの沈黙。表情の変化。オレはそれを見逃さなかった。
"過去のことについて触れたらまずかったかも、、"という思いがあっちゃんの頭の中を駆け巡っているのだろう。
オレも最初は拒否反応がでると思ってた。
でも不思議なことに、切ない気持ちにはならなかった。
理由はわからない。ただ、いつも過去関連のことで感じる傷口をえぐられたような感覚は、全くなかった。
「六年間かな。ずーっとバスケ一筋だったんだよね。
楽しいよ、バスケは。」
こーゆー時は、自分から喋って気にしてないことを伝えるのが一番だろう。
オレが相手の立場なら、そーしてもらえると気が和らぐ。
「バスケってさ、あんなちっちゃーいリングの中にボール入れなきゃいけないんだよー?難しくないの?」
「難しいけど、入った時の快感がクセになるんだよね。特に3pシュートとか。」
「ふーん。なんかルールもよくわかんないし、私は見てる方が好きかなー。」
「ルールわかれば絶対楽しいって!あのシュッっていうゴールの音がクセになるよ。笑」
一時はピンチを迎えたものの、また弾み出した会話。
やはり、あっちゃんとの会話はなにか温かいものを感じる。
「あっやばい!闘起!もう12時過ぎてるよ!明日本番なのに!」
「うぉっホントだ!これはやばい!寝なきゃ!」
「だね!おやすみ!明日がんばろーね!」
会話に終止符をうち、ベッドへもぐる。
しかし、ベッドに潜ったはいいものの、何故か眠りにつけない。
やはり緊張しているのだろう。
ふと首を傾けた先にはバスケットボール。
懐かしい映像が蘇る。
「闘起すげーなー。お前今日30得点だぜ。」
「いっつもそんなもんじゃね?ただ外から8本で中2本入れただけじゃん。」
「イヤイヤ普通の選手ならそんなことなかなかないから!君特別だからね!」
「そーか?」
懐かしい思い出。戻りたくもなるけど、そんな思いをしまい込み、明日のことを考えているうちに、意識は無くなっていた。