「びっくりしたよ~。まさか山本君が隣に住んでたなんて!」
「こっちもビックリ。まさか隣人がま、前田さんだなんて。」
意外と弾んでいるこの会話。
人見知りとしてはかなりの出来だろう。
実は、前田さんの家はうちの隣、しかも、お互いの部屋は向かい合っていて手の届く距離にあったのだ。
「前はね、山本君の部屋には凄く仲のいい女の子が住んでたの。
それで、この場所で色んな話をして、相談もして、本当に助けられた。
憩いの場って感じなんだよね。
だから、、、、」
「どうかした?」
「ううん!なんでもない!」
綺麗な顔に何故かちょっと切ない表情を浮かべる前田さんは、とても美しく、何故か少し儚いものにも見えた。
「そーいえばさ、今私のこと前田さんって呼んだでしょ~?
なんか距離感じるから嫌なんだよね。
もうクラスメイトなんだからさ、あっちゃんって呼んでよ!」
ほのぼのとしている前田さんの笑顔はとても可愛くて、こっちはとても癒される。
なんだろう。
素でいるのに人を癒したり楽しませるチカラ。
オレも欲しかったな。
「ねぇ~?聞いてる~⁉︎」
「あっごめんごめん。ちょっとぼーっとしちゃって。
でもさ、初対面の女のコを下の名前で呼ぶってかなり恥ずかしいよ。笑」
「えーそーかなー?昴希とか恋は普通に呼んでたよ?」
あの二人の性格なら大丈夫だろう。
片や初対面でもわかるフレンドリーさを醸し出す男。
片やただのアホだ。
「まぁ確かに、恋はただのアホだし、昴希はめっちゃフレンドリーだからねー。
ていうか山本君、恋のアホネタ好きだね。笑」
まただ。
また心を読まれてる。
可愛い顔して、本当に怖い能力だ。
聞いてみようかな。
超能力について。
いや、流石に初対面でそれは難しい。
しかも、それは普通の人に過去のことを聞くのとはわけが違う。
そうこう考えているうちも、時間は止まることなく進む。
「あつこー?ご飯だから降りてきてー!」
「あっごめん!
私、ご飯食べなきゃだから下降りるね。
じゃあまた明日!」
「うん。じゃあね。」
前田さんがいなくなり、寂しくなった彼女の部屋を眺めながらふと考える。
超能力について聞くこと。
それは、前田さんの過去について聞くこととなんら変わらない。
そして、その辛い過去の経験や、前田さんの辛い思いを受け取り、痛みを共有しなきゃいけないのかもしれない。
そんな行動は、人見知りのオレでは愚か、普通の人間でも簡単にできることではないだろう。
そんな風に考えて、結局思っていることを胸に閉じ込めてしまう自分が、情けなくて、悲しかった。
オレ、やっぱ変わったな。
うつ伏せの状態から動くことのできない写真を見ながら、そう呟いた。