別室に案内され主治医からの話が始まった。
主治医「最近、奥さんの行動や言動におかしい時があるでしょ?この症状は多分、せん妄だと思うんですよね。
終末期を迎える癌患者さんの8割から9割の方にこの症状がでます。覚悟をしておいた方がいいかもしれません」
“終末期”と“覚悟をしておいた方がいい”この2つの言葉を聞いた時、私は涙を堪えることができませんでした。
主治医「私もはじめはうつ病を疑ったんですど、ちょっと違うみたいなんですよね。
せん妄って言うのはですね。今まで医療用麻薬を服用してきたと思うんですが、これが脳にダメージを与えたんじゃないかと思うですよね。
まだ起こりうる原因は他にもあるんですけどね」
主治医「しばらくは抗がん剤治療もお休みして、医療用麻薬も貼り薬に切り替えて様子を見ましょう。もし、せん妄の状態も良くなって体力的にも大丈夫かなと思ったらまたその時、次の治療を考えましょう。何かここまでで質問はありますか」
私はこの時何も言う事も出来なかった。
別室を出でてからも人目もはばからず涙を流した。
このまま病室に帰れば妻を不安にさせてしまう。
私はトイレの個室で声を押し殺して気がすむまで泣いた。
気を落ち着かせ、妻の待つ病室に帰る事にした。
病室に戻るとすぐに妻が私に聞いてきた。
妻「いっちゃん、お話し長かったね。先生なんだって?」
もちろん本当の事は言えなかった。
私「痛み止めの相談をしてたとよ。今度は飲み薬じゃなくて貼り薬に変わるみたいよ。
今より痛みが改善されるといいね」
妻「ふ〜ん、そうなんだ」
それ以上の事は何も聞いてこなかった。
やがて消灯時間になり部屋の明かりを消した。
私「おやすみ〜」妻「いっちゃん、おやすみ〜」
抑えていた感情が一気に溢れてきた。
寝心地の悪そうな簡易ベッドに顔を埋め、声を押し殺して何度も何度も泣いた。朝が来るまで何度も泣いた。