可笑しな夫婦 | 10go9

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親父は極端に大人し過ぎて、子供の自分とは全く意思疎通。

すべてのお膳立ては母が整えてくれていたから、別に支障はなかったけど、

母がなんぜ、こんな親父を選らんだのだろう?

それが子供の時の、最大の疑問だった。

しかも地元、近所同士の結婚。

なのに馴れそめの噂を一度も聞いたことがない。

 

祖父が野良仕事の合間にやって来て、縁側で腰を下ろして煙管タバコを吹かしながら、

「婆さんが、あんな土地辞めとけ、というから、買い損ねて損をした」

母にぼやいてる。

「もうええ歳なんやから、あんまり無理しいな!」

母が祖父を窘めている。もしそこの親父が居たとしても、

居るのやら、居ないのやら、風の如く。

挨拶ぐらいしても良さそうなものを、兎に角目立たない。

 

宴席でも父は酒を飲めない人。

その父に祖父が酒を贈る。

母が、

「酒、飲めへんぜ!」

と言っても、

「置いといてええ! 飲める口や!」

そう言って祖父が帰ったら、本当に酒が少しずつ減っていた。

「お爺さん、よう見とるわ~」

後で、母が感心していた。

 

自分が親父の本領を知ったのは、親父が逝ってから後。

親父と祖父。その接点にまつわる思い出があまりない。

ただ一つだけ、祖父と親父、そして自分の三人だけで、

当時はまだ蒸気機関、福知山線に乗った記憶。

祖父が駅弁のサンドイッチを買ってくれた。

祖父と親父は座席に向かいあって座し、

お互い何を話すでもなく自然体だったけど、

親父が祖父を尊敬していることだけは、子供ながらに何となく汲み取れた。

帰ってきて初めて食べたあの駅弁の話をしたら、母が、

「あのケチな爺さんが・・」

と、笑ってた。

 

あの時は、まだ蒸気機関の福知山線。

何故、登場人物が、この三人だけだったのか。

祖父の次女が大阪に嫁いでいる。

その冠婚葬祭にでも招かれたのか、

あるいはその紹介で耳鼻専門病院へ通った幼少期がある。

当時は鉄道沿線に出るだけでも大変だった。

父の思い出の中でも、これはかなり鮮やかな思い出である。