富嶽百景 (3) | 10go9

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やっと半世紀越しの、夢叶う。

旅の目的地は、太宰治の書く『富嶽百景』の中の、

御坂峠の天下茶屋。

念願叶って、やっと辿り着き、自分は、今、河口湖畔の宿にいる。

もう、ニアミス、といって、いい! (笑)

そのくせに自分には、もう一つその位置取りが、わかっていない。

 

 

人っ子一人いない旅館七階の、展望風呂。まだ明け切らない暁暗。

そのまた外の露天の湯壺に、微睡みながら、自分は今日これから始まる、

太宰治の名作『富嶽百景』

その情景を夢想していた。

 

 

太宰治は書く。

御坂峠のその茶屋は、いわば山中の一軒家であるから、郵便物は配達されない。

峠の頂上から、バスで三十分ほどゆられて峠の麓、河口湖畔の、河口村という文字通りの寒村にたどり着くのであるが、その河口村の郵便局に、私宛の郵便物が留め置かれていて、私は三日に一度の割で、その郵便物を受け取りに出かけなければならない。天気の良い日を選んでいく。

 

 

バスでゆられて三十分か?

暁暗、人っ子一人いない七階展望風呂、その露天の湯壺に微睡み、

自分は、その名作の情景を連想してた。

 

 

眼下は夜明け前の河口湖畔。湖面に夜間照明灯が瞬いている。

幻想的で、美しい。

バスにゆられて、三十分か?

自分は湯壺に微睡みながらも、太宰のいう情景を追っている。

 

 

河口局から郵便物を受け取っり、またバスにゆられて峠の茶屋に引き返す途中、

と、さらに太宰の文章はつづく。

乗客たちは皆、からだをねじ曲げ、一せいに車窓から首を出して、いまさらのごとく、その変哲もない三角の山を眺めては、やあ、とか、まあ、とか間の抜けた嘆声を発して、車内はひとしきり、ざわめいた。・・・富士なんか、あんな俗な山、見たくもない。

 

 

太宰は、そういうけど、

他の乗客に混じって、太宰の乗るそのバスに乗って、

自分もまた、その現場に遭遇し、

間の抜けた嘆声を発してみたかった。(笑)

 

 

御坂峠のその天下茶屋へは、バス便も考えた。

三つ峠へ登ってみたかった。

だけど、相方がいる。それに時間的な制約もある。

あきらめて、レンタカーを借りることにした。

カーナビ任せの、レンタカーか?

それが夢想で追跡し、進む、御坂道、

その旅の面白味を、半減することはわかっていたが・・・。

で、自分は、居場所、その立ち位置を、碌に調べもしなかった。

 

 

カメラを脱衣所に持ち込み、

眼下の河口湖、その夜明け、その決定的瞬間を、

そのシャッター・チャンスを、一人待った。

人が入ってきたらカメラは使えない。

中々夜が明けてくれなかった。

自分は一人、素っ裸で、湖面から吹き上げてくる朝風と対峙してた。

 

 

おやッ!?

と、思った。ほんの一瞬だった。

湖面がピンク色に染まった。

一瞬の至福だった。

見えなかったけど山の端で、朝焼けが始まっているようだった。

 

 

写真では、その美しさは伝わらないが、

自然がその最も美しい姿を見せてくれるのは、

自然が、その人を見初めてくれた時だけ、だという。 

その一瞬、

自分は、河口湖に、見初められたのだと思う。

 

 

でも、次の一瞬、

ああ・・! ここでは、富士は望めない!

欲張りである。自分は浴衣もそこそこに、慌てて部屋に、とって帰した。

方向感覚を悟ったのだ。

部屋の入り口には、各部屋、朝刊が配達されていた。

 

 

部屋に飛び込むと、

テレビを付け、ゴロ寝したまま、

相方が、

『米・大統領選、トランプ勝利!!』

朝刊の、手荒く踊った字面を、追っていた。

 

 

時事ネタも嫌いじゃないけど、

今、そんなこと、してる場合か!!

ああぁ! 何という、感性の違いだ!!

自分は、相方の枕元を、飛び越え、床踏みならして部屋を横切り、

カーテンを開ける!

 

 

そこに、

雪!!

真白な、富士があった。