ゆりかはいつものように学校が終わると予備校に行き、家に帰ったのは十時半を回った頃だった。いつもならパートから帰った圭が夕飯の支度をしている時間だ。だがその日はキッチンも玄関も電気が消えていて、家中真っ暗だった。(どうしたんだろう)ゆりかは暗い中、カギを開けようとしたが、いつもは掛けられている鍵が今日はあいていた。

 ゆりかは廊下の電気をつけた。保のクツはなく、圭のクツが乱れていた。圭はきちんとした性格で、いつも家中を整理整頓していた。ゆりかは何かがあったのだと瞬時にして悟った。

 リビングの電気をつけて入っていくと、圭はソファーに丸くなって泣いていた。

「おかあさん、どうしたの?」

「あ、ゆりか…帰ってたの」

圭は涙を拭いてそれをゆりかに見られないように、顔をそむけながら立った。

「電気もつけないで…」

ゆりかは脇をすり抜けていく圭を目で追った。

「ごめんなさい。もうこんな時間なのね。すぐにご飯の支度するわ」

「お母さん…」

圭の様子は明らかに変だ。何かを隠している。圭は食器棚から皿を一枚出すと、冷凍庫の扉を開けた。

「今日はね、お母さん、何もしていないのよ。冷凍のチャーハンでいいわね」

ゆりかははっきりしない圭の態度に腹が立った。いつも元気な母―。いや、ゆりかの前で泣かないだけで、ゆりかの知らないところでは泣いていたのかもしれない。しかし今日は違う。こんなに打ちひしがれた圭を見たことはなかった。

「お母さん!何があったか話して」

「ゆりかー。ごめんなさい。あの、あのね。お父さんが出て行っちゃったの」

 ゆりかは耳を疑った。なぜ保が家を出たのかゆりかは見当がつかなかった。信じられない。しかし、圭のただならぬ様子を見て現実を突きつけられた思いだった。

「どういうことなの?お父さんが出て行ったって…」

「夕方、お父さんからメールが来て、家を出ると言ってきたの。帰ってきたらお父さんのスーツケースがなかった」

「メール見せて」

ゆりかは圭のカバンからケータイを取り出すと、保から来たメールを開いた。

 

『』好きな人ができたいるんだ。君も気が付いているだろう。もう君とは暮らせない。とりあえずゆりかが成人するまでは養育費は払う』