■柳生忍法帖
エログロをカットし、原作のエッセンスを取り入れながら、うまく敵討ちの話へとまとめていました。
犬丸たちを人の盾として使う外道っぷりとか、加藤明成が牢屋にいる十兵衛を弓矢で討とうとする残忍ぶりのすみれアレンジがよかった。
話の盛り上がりの起伏が平坦で、敵討ちを果たしたときのカタルシスが少ない気はしましたが、
キャラクターが豊富で、七本槍は華やかで、執念の煮こごりみたいな愛ちゃん銅伯と飄々とした礼真琴十兵衛の軽妙さとの対比も面白く、星組らしいキャラのたった和物でした。
しかし大野先生の舞台は、暗いイメージが有ります。
今回は話の展開上仕方なかったとはいえ、夜夜夜夜。
ハポンのときも、前方席の大先輩方がこつくりと船を漕ぎ、銀橋にスターがやってくるとむくむく起き上がるという現象が垣間見られ・・・
すかーっと晴れた空とか昼も見てみたいです。
礼真琴の黒尽くめ十兵衛、俊敏な殺陣はさすがでした。
歌いながら斬ってましたねえ。妖術ですわ。
印象に残ったのは、七本槍です。かっこいい!!
悪を、傾奇者(かぶきもの)に見立てて、派手で婆娑羅なお衣装にさせたのも心にくい。
あかちゃんの椿の着物、レイラさんのギラギラスタッズ、こりんの弁慶めいたメイク、ぴーすけの黒塗り、極美くんの美形を際立てるビンディ、さりおの荒々しさどれもかっこよかったねえ。
そして、やはり愛ちゃん。
黒ドクロのお衣装に金髪の107才、髑髏城のラスボス感満載の存在感に見惚れました。
さらに、芦名滅亡の回想シーン、黒地にススキのお衣装をまとって嘆く姿の凛々しさ、美しさ、この世のものとも思えん。
みりおのエドガーのように、この世のものでない魔力を表現するときに、この世にはない「美」で見せるという方法がある。
愛ちゃんの銅伯も、時を超越する魔を、男役としての美で見事に見せてくれたと思う。
不死の役を何度もやってきた愛ちゃんが、ついに滅していくのも退団と相まって感慨深い。
愛月ひかる、ここにあり、という存在感の公演でした。
■モアーダンディズム
みちこさんのときから今に至るまで、星組さん、レビューの達人と化している。
スピーディでエレガントな身のこなしと、全体芸の統一感と個々の押し出しのバランスがとてもいい。
美しい以外の理由を問う必要なしの、これぞレビューと云う、王道のレビューでした。
エレガントな黒燕尾とドレス、情熱的なラテン、クラシカルな薄紫色のとばりのむこう、躍動的なミッション・・と場面にとてもメリハリがあって、
宝塚の定番中の定番のよさを感じました。
第一章 プロローグ
オープニングの四色階段はわくわくしますね。
ハットにスーツというレトロなお衣装に、幾何学的なテクニカルな振り付けのミスマッチの妙がいい。
ひっとんの、クラシカルな肩の動かし方とかぐっときました。
礼真琴のダンディーは、しなやかでストイック。
遊びやブラフの部分より、にじみ出てしまう真面目さが色っぽい。
令和のダンディーは、ロッククライミングというよりキャンプ、ソースより塩麴という感じだ。
間奏曲 薄紫のとばりの向こう
前略、愛様。
好きです。
草々
第二章 ミッション
使命を受けた青年が、婚約者に別れを告げ戦いに向かうシーン。
手に持った文書を、人から人へうけわたし、受け渡し・・・。
緊迫感や躍動感のある場面で、雰囲気ががらりと変わり、少数民族部族の言語や歴史を守り伝えていくシーンにも見えます。
ダンスとストーリーのほどよい融合がいい。
間奏曲2 ビューティフルラブ
桜色、レモンイエロー、若草色、忘れな草色、菫色などエレジーあふれるボンネット帽を被った淑女たち、まるでパンジーが可愛い首を伸ばして揺れているような可憐さ。
指をペロッと舐めないとスーパーの袋もあけられない水分糖度0%のパっサパサの己の体内のロマンチック受容体が一気に覚醒したシーン。
第三章 キャリオカ
こっちゃんの、きざり顔、きザリ声、こってりとしていいです。
オラついたダンディー感、さすがの生粋の星組育ち。
レビューを見せると、小さな子はだいたい「娘役さんになりたい!」って言います。
そりゃそうだ!
娘役さんが片手でスカートを高く持ち上げるシルエットは、六甲山の裾野か蓬莱山のふもとか、はたまた紅の梅の里か。
夢まぼろしの美しさ、これぞレビュー。
スカート捌きを活かすような、空間を大きく見せる頭上のたかーい柔らかいアーチがいい。
背の低い橋が舞台に登場すると、その下から2列の紳士淑女が隊列をなして出てきて、踊り狂う。垂直ジャンプの振りかわいい!
背丈ギリギリのアーチが隊列を強調して面白い。
橋の上、階段の上まで組子がひしめくのは、華やかでいいですね! (あれ、劇には・・・・)
レビューは、ピンクと紫をどう使うかがポイントだと岡田先生がどこかでおっしゃっていたと思うのだが、黒燕尾にロマンティックピンクのドレスの淑女、ミントグリーンの刺し色、エレガントな完璧な美しさでした。
第四章 ゴールデンエイジ
愛ちゃんの白軍服、輝いてました。私も白馬探した。っていうか、ペガサスだての馬車探した。
うたかたの恋にインスパイアされて、岡田先生がつくてくださった場面、二枚目の愛月ひかるをしっかり堪能できました。
私は愛月さんの、体の開き方が好きでしてね。
体を正面よりちょっとななめにひいて、おもむろに足を開き、歌い始める0番の体が大好きでしたね。(伝われ!)
若手男役のういういしい水色の軍服が眼福です。
第五章 ハードボイルド
このストライプは、時を超えても太いままでイカス。
せおあかちゃんのタンゴから、後ろで、顔で踊るハードストライパーズが最高だぜ。
後ろに柱が立っているセットなんだけど、下手側は柱が低く、柱どうしの間隔が狭く、上手側は徐々に高く、間隔が広くなってる。
舞台を広く見せて、ストライパーズを際立たせる設計ですかね。シンプルだけどスタイリッシュ。ああ、かくありたい。
第六章 Theロケット
赤いダービーハットに、ゴールドのジャケット、蝶ネクタイにバニースタイルのダンサーが古き良きショーガールという雰囲気でとてもよき。
第七章 テンプテーション
星組のバンダナは他組より0.5cm深い。
そこには汗と動脈とパッションが詰まっている。 By 柚希礼音
というのは真っ赤なウソとして、星組の赤バンダナは五組1ですね。
ミステリアスで、情熱的で、エレガント。
ひっとん、劇の人格と、ショーの人格と変わるよね?
ドンジュアンを思い出させるバラのセツトに、ひっとんの女王感が、神々しい。
ここは世が世なら、ショーなら客席降りの場所だったろうな・・涙
間奏曲 ラ・パッション
瀬央の登場したときの無類の場内の一体感な。
ジェンヌさんの基本、「全力投球」を体現したような瀬央さんを見ると、どんなシーンかどうかは二の次で(オイ)、頑張れ!って力を込めてしまうのです。楽しげでとてもよかった。
第八章 アシナヨ
二番手が大階段の前でデュエットダンスの歌を歌うって、「22世紀に残したい宝塚の伝統ベスト3」にはいると思う。
一番近くで見てくれている二番手さんの愛のまなざしに照らされて、トップコンビの信頼感がより尊く見える。
二番手さんの目は、私達ファンの代わりに一番近くで見てくれている目でもあり、相手役さんに近いまなざしでもあり、組子のまなざしでもある。
これはもう、舞台の権化と言っちやっていいんじゃなかろうか。
特に、愛ちゃんの目は、ヅカオタの目そのものというか・・。
愛ちゃんの歌声に抱き留められて、自由に踊ることなこのダンスも素晴らしければ、愛ちゃんの大きなたたずまいも愛にあふれてた。
私は、ジェンヌさんが与えられた場所で粛々と努め、きちんと結果を出して見せる姿に心から感動します。
専科から星組のアルジェに出演したとき、こっちゃんとの相性にも感動したし、激動の境遇の中の変わらない堂々たる笑顔、スターの存在感に震えました。
星組でどっしりとした重厚な男役を演じる姿は、洒脱に軽やかに向かう時流の趨勢の中で、昭和の男役の系譜を感じさせて、とても頼もしく、舞台に厚みを感じた。
愛ちゃんを見ると、コテコテの宝塚を見た満足感があった。
くどすぎる宝塚愛、負けず嫌いすぎるねちっこさ (主にゲームコーナーにて)(勝ちすぎや)、語りすぎる口、
全部ひっくるめて、気づいたときにはもう誰もが愛月ひかるを忘れられない。
愛ちゃんの爽やかな退団に、何を言うのも野暮だけれど、
さよならショーで階段中央を降りてくる姿に、数多くの消えていった「たられば」を思わずにいられませんでした。
劇もショーも白と黒の愛月ひかるを集約したような素晴らしい公演でした。
不死身のスター、愛月ひかるが、引き続き愛の中で輝き続けられることを、心から祈ります。