私を罵倒し続けた患者さん

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これまでのまとめ

幼い頃から自己否定の癖がついていた私。自分を殺して穴だらけの心を修復しないまま大人になった私は、医師として激務をこなすうちに心身に無理が生じ、20cmを超える巨大卵巣癌を発症してしまいました。

手術と抗がん剤治療を2018年年末までに終えました。

自分の心身をないがしろにし、不幸な理由ばかり探していたことを反省し、しあわせを集めて生きていこうと思っています。



過去に、私のことを罵倒し続けた患者さんがいました。

私がまだ研修医だった時に出会った、70代男性、癌患者のSさん。



当時の私は、癌なら、さぞ辛いだろう、なるべく明るく接してあげるべきだ、と考えました。


初対面の時に、入院中のSさんに笑顔で明るく声をかけました。

「初めまして!よろしくお願いします!」

そのあと色々話しかけたのですが、Sさんは返事をしてくれないどころか、ムスッとしていました。

それで私はますます明るく話しかけました。
Sさんの気持ちを少しでもほぐしたいと思ったのです。


ところが、突然、黙っていたSさんがこう言ったのです。


「おまえ、馬鹿そうだな!」



えっ?



意味がわからなくて、戸惑いました。
決して責められるような内容の話はしていない。

今日は天気が良いですね、とか、具合はいかがですか、とか、そんな程度です。


でもきっと私の対応が何か間違っていたのだろうと思い、とにかく謝りました。



でもSさんは、許してくれませんでした。


その初対面の日以降、Sさんは私のやることなすこと全てに文句をつけました。


他の先生達と同じことをしているのに、私だけ、激しく罵倒するのです。


その内容は、理不尽と言わざるを得ない内容でした。


毎回何十分も、私の顔を思い切り指差しながら、罵声を浴びせ続けます。


他の患者さんの対応もできず、仕事に支障が出ていました。
気分を害してしまったことは謝りつつ、毅然とした態度をとるしかありませんでした。


Sさんの心をほぐすどころではありません。




ある時、見兼ねた上司が間に入ってくれたのですが、

「かばうな!」

と一喝。
あまりの剣幕に結局上司も黙ってしまいました。



そんな状況が数ヶ月続きました。


やがてSさんの病状は進行し、寝ていることが多くなりました。



それからしばらくして、Sさんは亡くなりました。


亡くなったその顔は、眉間に皺が刻まれて、苦悩に満ちているように見えました。





結局、Sさんの穏やかな顔は、一度も見ることはありませんでした。


家族がお見舞いに来ていた時でさえ、険しい顔をしていたくらいです。






未熟な私の、
「癌の患者さんには明るく接するべき」
という考えが、短絡的であったと今では思います。


癌患者さんと一口に言っても、それぞれが全く別の背景を持った人です。
明るく接することで気持ちが安らぐ人、そうでない人、いて当然だと思います。


初対面から決めつけで対応した私は、頭が悪いと言われても仕方ないかな、と思います。


今では自ら癌患者となった私を見て、あの世でSさんは「ざまぁみろ!」なんて言ってるかもしれません。


でも、考える機会を与えてくれたことは、感謝しています。



それにしても、1回の対応の間違いだけで、どうしてあんなにずっと激しく私を罵ったのか…

執念深い人だったのかな、と思っていましたが、最近少し違う考えが出てきました。



次回に続きます。