10年近く前、信頼している中野翠が、絶賛していたので文庫本で読んだことがあるエッセイ。
銭湯の女神 (文春文庫)/星野 博美

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当時、自分で始めた店が軌道に乗り始め仕事に対してそして人生に対しても、前向きなおかつ上昇志向の強かった自分には、好感は持てたし共感する部分も数々あったものの、特別に心に引っかかることはなかったのだけれど・・・
あれから時を経て、自分の状況も変わりすっかり「世の中ままならないもんだ」とため息のつくことが増えた今、ふと読み直したこのエッセイ、ぐいぐい心に響きます。
なんといっても著者の星野さんの視点の広さ、感じたことを的確に文章で伝える技術、そして感じていることのまっとうさ。
弱っている自分に喝を入れられ、迷いの生じている自分の背中を押してくれるような力があります。
いくつもの好きな箇所があるんだけれどファミリーレストランや銭湯での人間模様から日本社会を分析するあたり、ごみ出しの常識と世の中には一般的な常識の時間外に働いている人がいなくては成り立たないことを訴える一篇、100円ショップのコストの話などなど。
90年代終わり頃に書かれたものと思われるけれど、今読んでもちっとも古くない時評的文章です。
むしろあの頃よりもっとその問題の数々は根深くなる一方かも・・・