ひょっこりテレビをつけたら、独特の鼻にかかった声が聞こえた。
 ああ、開口健だ。

 アマゾンで釣りをする彼。オーパ! 奇しくも、60年代を切り取った「声の狩人」を読み返していたところ。開口ならぬ邂逅と。

 はじめて家族で海外に行ったのは、ベトナムはホーチミン。サイゴンというほうが耳慣れている地。7年前のことだ。さてどこへ行こうかというときに、開口健の見たサイゴンを私もこの目で見たかった。ミーハーな発想。
 彼がベースとしていたマジェスティックではなかったけれど、連夜カラベルのバー「サイゴン・サイゴン」へと出かけては、眼下にひしめくバイクの列を眺めて過ごした。「ミス・サイゴン」「グッドモーニング・ベトナム」。あまりに有名なカクテルを飲みながら。

 行き交うバイクの猛烈なスピードと、そこかしこに座り込んでのんびりフォーをすする人々の対比。
 土色をした雄大なるメコン河。喧噪の市場。ひとなつっこそうだが、媚を売らない顔つき。

 彼らは、昨日の事は考えない
 昨日の事を考えると悲しいことばかりだからだ。
 彼らは、明日の事は考えない
 明日生きている保証は何もないからだ。

 ベトナム人の気質をこう言う人もいる。

 行きずりの私たちは、それを理解することは出来ない。大いに楽しむだけである。そう、見事に楽しい旅だった。
 夫は、シャツをオーダーした。細かに採寸し、帰国間際まで待たされてホテルに届いたシャツは、夫のからだには、ふたまわりも大きなもの。
 しゃあないか。暑い国だもの。まあ、これも一興と。
 一度も着ないアオザイに旅の余韻が残っている。