ハワイから帰って間もない友人とその娘さんと昼食をともにした。
 「ABCマート」の話で盛り上がる。そう、ハワイは、どこもかしこも「ABCマート」にあふれている。1ブロックに2~3軒もあるのだ。ワイキキだけで30店舗以上。ともかく歩けばABCマートに出会うことになる。
 
 そんなこんなの話しで、初めて行った海外旅行を思い出した。グアム。結婚して1年たつかたたない頃だから、1981年のことだと思う。
 当時は、むろん今より海外旅行の人口は少ないが、消費万歳の時代で、海外へ出かける人も増え始めていた頃だ。
 結婚して退職し(職場結婚だったため)、しばらく家にいたが、退屈でアルバイトでもと仕事を探したら、社員にならないかと誘われ、正規採用となった。わずか4~5人の事務所でそれも社員は2人ほど。本社は東京というが、特に職場に興味もなく、全国に支所があるのも知らなかった。東京本社に行ったとき、ビルの大きさと社員の多さに驚いたものだ。
 で、グアムである。その会社は一年に一度、社員の福利厚生で研修の名のもとに海外旅行に行かせてくれるという。順番があるらしいのだが、その年はなぜか新人を行かせようということになり、4人のうちの一人に私も入った。
 その話しがきたとき、即答した。「辞退します」。
 ・・・これまで一度も辞退するなんて聞いたこともない。海外旅行を断るなんて・・・。なぜなら、まだ新婚生活。こっちのほうが楽しいからと。せっかくだから考え直してくれと説得され、嫌々ながら行くはめになった。

 私がグアムに行く、と聞きつけた夫の友人がやってきて、これがとんでもないミッションを課した。無修正のプレーボーイもしくはペントハウスを買って来い。お願い口調ではない。命令である。何が何でも買ってこい。

 グアムに着いても、私はそのことでいっぱいだ。団体ツアーだから、4人に加えて、他の客とも一緒で、一応の観光地を巡りあとはオプショナルツアーをどうするか。だが。私は所用があると言ってひとり別行動。しかし。どこで、入手できる?
 とりあえず、本屋だな。バスででかける人を横目で見ながら、ひとりタクシーに乗って本屋へ行ってくれと。ない。別の本屋へ連れていってくれ。ない。とはいえ、タクシーの運転手に目的を告げる勇気はない。
 どうしたものか・・・。ついにある夜、ホテルの近くのポルノショップに人目を忍んででかけた。怖かった。自分を奮い立たせてドアを開けて入ったものの、物色する間もなく飛び出した。グロい。エロい。気持ちが悪い。星を見上げて「ああ、帰りたい」。

 最後の日、もう諦める事にした。気持ちを変えて、そうだアメリカのスーパーを見てみよう。なんでもかんでもきっととんでもない量で売られているんだろうな。おお、すごい。ピザ一枚、なんという大きさ。牛乳パックのでかいこと。見るもの、みな珍しい。
 みなさんは恋人岬か、スキューバか。私ひとり、スーパー見学。結構、飽きない。
 ぐるりと店内を一周して出ようとしたとき、なんと!あるではないか。一角に雑誌コーナーがあり、プレーボーイもペントハウスもごく当たり前の顔をして並んでいる。
 してやったり。買うのは恥ずかしいが、こうも普通に売られているのだからとバクバクの心臓に言い聞かせ、数冊を入手。ようやく役目が果たせた次第。

 ところが、だ。帰る段になって、万一荷物チェックされたらどうしようと、これまた心臓バクバク。バッグの一番下に入れ、衣類で隠すが、「ポルノなんて買って、見つかったら、もう最悪よね」なんて一緒に行った女性の声がする。団体の男性への牽制だけど「それ、私です」と懺悔したい気分。

 無事、帰国したが、夫へのお土産がないことに気づいた。空港の免税店でネクタイとバッグを買った。
 そんなわけで、私はグアムのどこも知らない。気もそぞろで景色すら目に入らなかったから、幻の旅、同然である。