「お帰りいただいてくれ」
彼は相手の顔を一切見ずに、冷たく言い放った
「ちょちょっと、待ってよ!」
「いっ…いや、いいんです…こんなことをお願いしようとしてすみませんでした」
「そんな…そんなことないですって!もぉ!しょーちゃん!!」
「仕事中にその呼び方をするなと何度注意した」
「あっごめん…じゃない!今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
「恋人のストーカー調査など、警察に行けばいい話ではないか」
「その警察が動いてくれないっていうから、ここに助けを求めてるんじゃん」
「うちはそんなことをするためのとこではない」
「そんなこと言ってるから、いつも仕事が無いんじゃん!」
「では、私に似合う仕事を君が取ってくればいい話だ」
「はぁ!!!」
「あの!ホントにすみません!」
俺らのやりとりをオドオドと聞いていた青年は胸に抱えていたDバックをぎゅっと抱きしめて、泣きそうな顔をしてこの事務所から出て行った
ここは『櫻井探偵事務所』
街外れの小さな古びた一軒家
家の部屋の小さなリビングにそぐわないほどの高級そうなデスクの椅子にふんぞり返って座っている所長 『櫻井翔』
そして、俺がアシスタント『相葉雅紀』
看板も広告も一切していない探偵事務所に、仕事の依頼などほぼ無い
しかも、この所長である櫻井は仕事の選り好みが激しく
・浮気・素行調査
・迷子動物探し
・人捜し
を嫌う
こんな所に事件・事故などの調査など来るわけ無い
だから、今みたいにわざわざ足を運んでもらって仕事の依頼をしていただいても
「お帰りいただいてくれ」の櫻井の一言で、せっかくの仕事も無くなる
「しょーちゃん」
「なんだ」
「いつも言ってるんだけど」
「何度も聞いてる」
「分かっているんだったら、今の依頼を受けたらいいじゃん」
「私の興味がもてる仕事ではない」
「はぁ!?興味なんて気持ち次第で何とかなるでしょ!!そんなことばかり言ってるから、ここはいつも仕事がないの!生活していくお金だって無くなるよ!」
「それには心配ない。ん?お金が欲しいのか?」
「そんなこと言ってないでしょ!でもね、しょーちゃんがどのくらいのお金持ちか知らないけど、こんな生活してたらいつかお金は無くなるの!」
櫻井は、俺の顔をじっと見ると
「はぁ…不毛な会話はもうやめていいか?」
「もぉ…」
この『不毛な会話』という言葉が出ると、櫻井はもう俺と話す気は無い
櫻井はデスクに置かれているラテを美味しそうに飲みながら、PCの画面の方に顔を向けた
俺は、櫻井に分かるように大きなため息を吐いて
「俺が勝手に引き受けた、城嶋さんとこのワンちゃんの捜索に行きますね」
部屋の壁に掛けてある自分のバックを背負い、こっちを見ない櫻井にもう一度ため息をつきながら事務所を出た
ふふふ…やっと見つけた